棟瓦むながわら)” の例文
時々人魂があらわれる。不思議や鬼火は、大きさも雀の形に紫陽花あじさいの色を染めて、ほとほとと軒を伝う雨のしずくの音を立てつつ、棟瓦むながわらを伝うと云うので。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
富士駅附近へ来ると極めて稀に棟瓦むながわらの一、二枚くらいこぼれ落ちているのが見えた。興津おきつまで来ても大体その程度らしい。なんだかひどく欺されているような気がした。
静岡地震被害見学記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
崩れた棟瓦むながわらの間から春になると蒲公英たんぽぽが咲きました。どうせ持主も改築するつもりで、うっちゃって置いたのでしょう。その親方は非常に健脚で、遠路を短時間に走るのが自慢でした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)