時世時節ときよじせつ)” の例文
「ああさ。そりやさう云つたぢや。でもの、まあ考へて見ば。時世時節ときよじせつと云ふこともあるら。こりやどうにも仕かたのなえこんだの。……」
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何も時世時節ときよじせつならば是非もないというような川柳式せんりゅうしきのあきらめが、遺伝的に彼の精神を訓練さしていたからである。身過みす世過よすぎならば洋服も着よう。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それにしても考えてみれば、四谷左門の娘御が、楊枝店の雇女になるなんどは、これも時世時節ときよじせつあきらめるか。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「十俵とは大したもんだなあ、が、時世時節ときよじせつで仕様がない、俺はもう一俵つけて、十一俵呉れるから、是非とも俺の方に頼む——なあに、本家ではまた他に頼む口があるべからなあ」
押しかけ女房 (新字新仮名) / 伊藤永之介(著)
思えば、時世時節ときよじせつとは申せ、お痛わしい限りじゃ。拙者は、幕府の仕儀が一から十まで気にいらぬ。徳川の流れに浴する身ではあるが、その水も濁ったわい。なあ、貴殿はそうはおぼしめされぬか
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いや、なにごとも時世時節ときよじせつ……こうおあきらめがかんじんじゃ。あのような水音にさえ、はッと心をおくお身の上、さだめしおつらかろうとおさっし申すが、またいつか天運のおめぐみもあろうでな。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時世時節ときよじせつだから仕方がねえや、ばかにするない
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)