くすぐっ)” の例文
盗伐者と地主——こう思うと、変にくすぐったく、情なく、血の遠さを感じた。それが一種の表情になっていたのかも知れない。
歩む (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
すると向うは、くすぐったいものだから鼻のあなを拡げてへらへら笑う、その鼻の孔を角の先へ引っ掛けて相手の平駄張へたばるまで円戯場アレエヌのなかを引き廻すんでがす。
それに、自分に紹介を求めるのは、英吉に反対したかどもあり、主税は面当つらあてをされるようにくすぐったく思ったばかりか、少からず敵の機敏に、不意打を食ったのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと、夜半よなかに眼がさめると、胸に、はしかゆいようなくすぐったいような感じがしました。はっと思うと、次の瞬間けたたましい咳嗽が起って、なお暖かい血は猛烈に口腔に跳ね上りました。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そこで、さんざくすぐっておいて、もうよかろうと角の先を鼻の先へもって行って、いきなり引っ掛けようとすると、どっこい! 鼻にはちゃんとコルクの栓がしてあるんでがす。
ちとこれが不意だったか、先達は、はたとつまって、くすぐったい顔色がんしょく
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)