“恬澹（てんたん）” の例文
これみな恬澹（てんたん）な名僧といわれた父親の世務をうるさがる性癖から来た結果だが、母親はどういうものか父を恨まなかった。
食魔 (新字新仮名) ／ 岡本かの子(著)
性質は静かで、恬澹（てんたん）で、そして立居振舞を、ひどく気を附けて、温和にしてゐる。此人はいつも機嫌が好い。
板ばさみ (新字旧仮名) ／ オイゲン・チリコフ(著)
博士は今年四十を二つ越した男で、身体は壮健であるが、自制力の強い性（たち）で、性欲は頗る恬澹（てんたん）である。
魔睡 (新字旧仮名) ／ 森鴎外(著)
お佐代さんが奢侈（しゃし）を解せぬほどおろかであったとは、誰も信ずることが出来ない。また物質的にも、精神的にも、何物をも希求せぬほど恬澹（てんたん）であったとは、誰も信ずることが出来ない。
安井夫人 (新字新仮名) ／ 森鴎外(著)