御誂おあつらえ)” の例文
御誂おあつらえならこしらえますが少々時間がかかります、と云うと迷亭先生は落ちついたもので、どうせ我々は正月でひまなんだから
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
久兵衛はその人に言い付けて、帳箪笥ちょうだんすの横手にある戸棚とだなから紙包みを取り出させた。その上に、「御誂おあつらえ、伊勢久」としてあるのを縫助の前に置いた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
前書があれば一層はっきりはするけれども、「ついと覗てついとゆく」といえば、その鶯が御誂おあつらえ通り啼かぬことは言外に含まれている。「鳴はせで」と断るのは蛇足である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「お前のように、楽屋でそんなことを言うもんじゃないぞい——見よや、日の出に鶴だ。丁度御誂おあつらえだ。これで袴を穿いて御覧、立派な万歳まんざいが出来るに」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「へえ御待遠さま、たんと御覧遊ばせ」と細君が鋏を主人に渡す時に、勝手から御三おさんが御客さまの御誂おあつらえが参りましたと、二個の笊蕎麦ざるそばを座敷へ持って来る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しばらくすると第二のゴンゴンが鳴る。ちょっと御誂おあつらえ通りにできてる。それから階子段はしごだんを二つ下りて食堂へ這入る。例のごとく「オートミール」を第一に食う。これは蘇格土蘭スコットランド人の常食だ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところへ下女が御誂おあつらえを持ってくる。煙草に火をけるはなかった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)