密偵いぬ)” の例文
とつぜん往来をガヤガヤと人騒ひとざわめきが流れてゆく。「密偵いぬだ、いぬだ」「梁山泊の密偵いぬが一匹捕まッた」というわめきなのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近く、三月三日を期して、水戸の志士が桜田門外の井伊大老を要撃することは、文次にはわかっているが、彼はもう、幕府の密偵いぬではなかった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、もう今ごろは、ウラジオ中の同志のあいだに、君が密偵いぬ臭いという評判が往き渡っていることだろう。
「おい、結果を早く聞こう。あれは、どうした。そのすじの密偵いぬを片づけることは?」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あいつも密偵いぬだったんのだ。道理で、何だか変だと思っていたよ。第一、今日なんか、ウラジオへ着いたらすぐ、先生のところへ顔出しすべきじゃないか。それが——。
「おのれは、役所の手先か誰かに頼まれたに違いあるまい、密偵いぬだろう、いや密偵の子だろう」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「故あってお蓮様の旨をたいし、若のもとへ密偵いぬに忍び入ったものであろう。どうじゃっ!」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「やい右馬介、そちに密偵いぬを働けなどと、いつ、高氏がいいつけたぞ」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)