大厄たいやく)” の例文
その手紙のつづきには、男の大厄たいやくと言わるる前後の年ごろに達した時は、とりわけその勘弁がなくてはあぶないとは、あの吉左衛門が生前の話にもよく出た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なかんずく、男は四十二歳、女は三十三歳をもって大厄たいやくと申しておる。そのはじめはシナにて起こりたることなれども、なにによりてかく定めたりしか明らかならぬ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そして時々心細い愚痴っぽい事を言っては余と美代を困らせる。妻はそのころもう身重になっていたので、この五月には初産ういざんという女の大難をひかえている。おまけに十九の大厄たいやくだと言う。
どんぐり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
紫夫人に出産のなかったことは物足らぬお気持ちもしながらまたうれしくお思われにもなるのであったから、まだ少女といってよいほどの身体からだで、その女の大厄たいやくを突破せねばならぬ御女おんむすめのことを
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
「寒いのはとにかくだが、さっぱり呼んでくれねえのは心細い。せめてこの近所に馴染なじみができれば、ちッたあ様子も聞かれるだろうと思うが……なにしろすること、なすことはずれてきやがる。考えてみると俺は三十六、今年は大厄たいやくだったんだなア」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岸本の四十二というとしも間近に迫って来ていた。前途の不安は、世に男の大厄たいやくというような言葉にさえ耳を傾けさせた。彼は中野の友人に自分を比べて、こんな風に言って見たこともある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)