多岐たき)” の例文
国文に関した研究もの、国史、支那稗史しなはいしから材料を採つた短篇小説、校釈、対論文、戯作、和歌、紀行文、随筆等、生涯の執筆は実に多岐たきわたつてゐる。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ここでは、茶の「寸法」も「清寂せいじゃく」もいて、客亭主、わけ隔てないくつろぎだけに、話も自然多岐たきにわたった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名人は聞き終わるとともに、じっと瞑目めいもくしながらうち考えたままでした。単純な事件と思われたのが俄然がぜんここにいたって多岐たき多様、あとからあとからと予想外な新事実が降ってわいたからです。
もし人の一生に、その多岐たきなる迷いと、多難なる戦いとがなく、坦々たんたんたる平地を歩くようなものであったら、何と退屈な、またすぐ生き飽いてしまうようなものだろう。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多岐たきな、複雑な、彼女の生活と、身に燃え現わされた純愛の炎と、おしのように無表情で、灰のように冷たく人には見せて来た自分の情熱の埋火うずみびと——いずれが強くいずれが苦しかったかといえば
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)