不為合ふしあわ)” の例文
そのうちその不為合ふしあわせな御方は、御自分の本意ほいからでもなく、ときおり殿をお通わせになさっていられるらしい御様子だった。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
近来不為合ふしあわせな事が続きまして、この老人が大層心寂しく存じている様子でして、名高い学者の方に泊ってお貰い申したら、何か心得になるような事が伺われるかも知れないと申すのです。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
そう口では云いながら、彼は胸のうちで此の人は矢っ張誰にも理解して貰えずにきっと不為合ふしあわせなのかも知れないと思った。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
自分なんぞの想像以上に不為合ふしあわせであられたらしいお身の上には、何かと胸を打たれるような事のみ多いのだった。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
云って見れば、それが現在の彼女の、不為合ふしあわせなりに、一先ずくところに落ち著いているような日々をおびやかそうとしているのが漠然と感ぜられ出していたのだ。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それにまた、世間の人々が、私のようにこんなに不為合ふしあわせになったのは、あまりにも女として思い上っていたためであろうかどうか、そのためしにもするが好いと思うのだ。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
素振りなどがいかにも娘々しているのを心によみがえらせているうちに、自分などの知っているかぎりだけでも随分不為合ふしあわせな目にばかり逢って来たらしいのに、いくら勝気だとはいえ
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一度自分の妻がいかにも不為合ふしあわせそうだと思い込んでからは、そうと彼に思い込ませた現在のままの別居生活が続いているかぎりは、その考えが容易に彼を立ち去りそうもなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
大へん私は不為合ふしあわせでございました。昔から苦しみばかりの多い身でございましたが、この頃はほんとうにもう生きている空もない程でございます。どうぞ思い切って死なせて、菩提ぼだい
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)