ひよ)” の例文
その時——それは、ひよく音に似たような、哀れに淋しい尺八たけの調べが、林の静寂しじまに低くふるえて、どこからともなく聞こえてきた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生きとし生けるひよや百舌、つぐみのたぐひ、木々の枯葉に驚く声も、けけつちやう、ちやうちやう、きいりきいりと親まる。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
稀には何処から迷い込んだか洋服ゲートルの猟者が銃先つつさきしぎひよのけたゝましく鳴いて飛び立つこともあるが、また直ぐともとの寂しさに返える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
が、何処どこの巣にいて覚えたろう、ひよ駒鳥こまどり、あの辺にはよくいる頬白ほおじろ、何でもさえずる……ほうほけきょ、ほけきょ、ほけきょ、あきらかにうぐいすの声を鳴いた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お光も小池と同じやうに、名も知れぬ神の宮の大銀杏おほいてふを見上げて言つた。ひよが二羽、銀杏の枝から杉の木に飛び移つて、汽笛きてきのやうな啼き聲を立てた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
敷台までも下りず突立ちながら、用事なら庫裡の方へ廻れ、と情無つれなく云ひ捨てゝ障子ぴつしやり、後は何方どこやらの樹頭に啼くひよの声ばかりして音もなく響きもなし。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
春の色香いろかでたるはあはれむべく、打霞うちかすめる空に来馴きなるるひよのいとどしく鳴頻なきしきりて、午後二時を過ぎぬる院内の寂々せきせきたるに、たまたま響くは患者の廊下をゆるう行くなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
先ず小鳥類のうち田鴫たしぎ雲雀ひばり水鶏くいなひよ金雀ひわ椋鳥むくどりつむぎ、雀なぞは殺してから中を一日置いて三日目を食べ頃としますし、うずら山鴫やましぎ、カケスなぞは四日目を食べ頃とします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「撃ったら知れるだろうか、俺より他に、何人だれもいそうにないぞ、こんな山の中じゃ、鉄砲の音は聞えても、つるを撃っておるやら、ひよを撃っておるやら、わからないだろう、そうじゃ」
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
我なりを見かけてひよの鳴くらしき
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「そんならひよですやろうかい」
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ひよのこゑさへうらがれて
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
わがいおの椿にひよの来る日課
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
と云い放ち、ひよのごとく、庭木のあいだへ駈け去った。逃げたのである。利家は大きく舌打ちした。そしてもう一度秀吉へ詫びを云った。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敷台までも下りず突っ立ちながら、用事なら庫裡くりの方へ廻れ、とつれなく云い捨てて障子ぴっしゃり、後はどこやらの樹頭ひよの声ばかりして音もなく響きもなし。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あなつめむれ鶺鴒せきれい群れ飛べど目にもとまらず。いづこにかひよは叫べど、風騒ぐけはひも聴かず。
うるはしえたる空は遠く三四みつよついかの影を転じて、見遍みわたす庭の名残なごり無く冬枯ふゆかれたれば、浅露あからさまなる日の光のまばゆきのみにて、啼狂なきくるひしこずゑひよの去りし後は、隔てる隣より戞々かつかつ羽子はね突く音して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
先ず大別すれば三通りの焼き方がありまして、雀、田鴫たしぎつぐみ椋鳥むくどり雲雀ひばり水鶏くいなひよ金雀ひわ、カケス、山鴫やましぎ、山鳩、鴨、小鴨、がん、牛、羊なぞはあまり焼き過ぎない方が良いとしてあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ひよがけたたましくき立てる。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日も、何の行動も起さず、ここの林に駐屯していたので、焚火の煙の立ちのぼる空に、もずひよの啼くのも静かであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しげしげと時雨見送るひよの子の一羽二羽とまるさいかちの枝
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひよ橿鳥かしどり、駒鳥、岩乙鳥いわつばめ、さまざまな鳥がその恵みを礼讃し、あたりの山草や植物も、かがやかしいや花に力をみせて、世阿弥の瞳はクラクラとしてしまった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このごろは寂びて明るき杉山の日和つづきを飛ぶひよ多し
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
言い残すと、そこからすぐ渓川たにがわ道へ降りて、ひよのごとく、その迅い影を、沢づたいに消してしまった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひよの声がする、百舌鳥もずが高く啼いている。ハラハラハラハラ扇形おうぎなりの葉が降りしきっている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うつくしい朝陽あさひ光線こうせんが、ほそい梢から、木のこけから、滝壺たきつぼそこの水の底まで少しずつゆきわたっている。ひよ文鳥ぶんちょう駒鳥こまどり遊仙鳥ゆうせんちょう、そんな小禽ことりが、紅葉もみじちらして歌いあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高氏は、突っ立つやいな、太刀のこじりに、ぴッとひよの尾のような神経を見せて。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋敷裏の丘は、六浦むつら越えの山波へつづいている。兄弟は秋草の中に岩を見つけて腰かけた。野ぶどうの実が、足もとに見え、ひよが高啼く、もずの音が澄む。——ふたりの胸に幼時の秋が思い出された。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
静かにひよいている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)