かつ)” の例文
旧字:
中畑さんが銃をかついで歩いているのである。帽子をあみだにかぶっていた。予備兵の演習召集か何かで訓練を受けていたのであろう。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その四人の侍が、長方形の箱をかついでいる。と、その後から二人の侍が、一挺のいかめしい駕籠に付き添い、警護するように現われた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
裸のベラン氏は助手にかつがれ、横になってその孔から硝子壜の中に入った。氏は中に長々と寝ながら、満足そうな笑みを浮べている。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「だけれど、心配しないでくんな。おら、用がすめば帰ってくるよ。ここへ帰ってくるよ。みんなの好きな土産をうんとかついで——」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからその荷物を運んでろうと云うので、夜具包やぐづつみか何の包か、風呂敷包をかついだり箪笥たんすを担いだり中々働いて、段々すすんで行くと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
世界的団長自ら広告のぼりかついで、ビラを配って、浅草界隈かいわいを歩いているなんて、なんとまあインチキな、人を喰ったしわざであろう。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いまから考えてみればあの時代の私の懐疑は新思想をかつぎ廻って新しがらんがための懐疑であり、自己の虚栄心にびんがための
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
ままよと濡れながら行けばさきへ行く一人の大男身にぼろをまとい肩にはケットのまるめたるをかつぎしが手拭てぬぐいもて顔をつつみたり。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
町へ出る時にも、やっぱり米友は烏帽子えぼしかぶって白丁はくちょうを着ておりました。それから例の杖に油壺をくくりつけて肩にかついでおりました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
で、五月と六月のふた月はやはり竹槍をかつぎ歩いていたんですが、さすがに悪いことだと気がついて、怱々に故郷へ逃げて帰りました。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
道満どうまん晴明せいめい右左みぎひだりわかれてせきにつきますと、やがて役人やくにんが四五にんかかって、おもそうに大きな長持ながもちかついでて、そこへすえました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「オクレているっては、あなたのことでしょう。こんなオモチャ、大まじめな顔でかつぎこんでくるなんて、頭の程度が知れるわね」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あれからすぐ病院へかつぎこんだのよ。けどその時はもう駄目だったのね。お小水が詰まって、三日目にお陀仏だぶつになってしまったの。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それを支那の下男が石油缶へ移して天秤棒てんびんぼうかついで、どこかへ持って行く。風呂につかりながら、どこへ持って行くんだろうなと考えた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
というは、轎夫きょうふとしてかつげば、相当の賃銭ちんせんを受ける一つの商売である。しかし壮丁として行くのは公利公益のために力を尽すのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
うまく拵えて膏薬を貼って居て「これだからかつげません」と云うから「手前てめえのくらい力がある」「わたくしは五十人力ある」と云うと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
診察室の隣の座敷の方には、そこにも医者の身内の遭難者がかつぎ込まれているとみえて、怪しげな断末魔のうめきを放っていた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
多勢の野次馬は、このときようやく気がついたように、母娘おやこ二人に手を貸して、死骸をあまり遠くないお楽の茶店にかつぎ込みました。
だが真柄の領内で、この太刀をかつげる百姓はたった一人で、常に家来が四人でになったというから、七尺八寸という方が本当かも知れない。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
くわを肩に掛けた男もあり、肥桶こえおけかついで腰をひねって行く男もあり、おやじの煙草入を腰にぶらさげながら随いて行く児もありました。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は、今朝、五時間も歩き回った揚句、からの獲物ぶくろを提げ、頭をうなだれ、重い鉄砲をかついで帰って来た。暴風雨あらしの来そうな暑さである。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「あの、屑屋くずいって。踊にゃないね、問屋でも芝居でもなけりゃ、それじゃ、ほかにゃねえ、屑い、屑いッて、かごかついだ、あれなんで?」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おらあかどわかしの片棒をかつぐなあまっぴらだ」と文次が云った、「尤も、百両というのも怪しいし、娘の来るっていうのも怪しいがな」
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
以来私は絵の道具をかついで坂路を登ることを大変いやがるようになった、坂路を見ると目がくらむ心地が今もなおするのである。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
と云ううちに、二人の塩漬けの樽と鞄を結びつけた棒をかつぎ上げて、まだお酒の残っている樽を右手に持ちながら梯子段を降り初めました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
私からたくり取った鞄を、片手にヨチヨチと、くわかついで通りかかった下男が、またその鞄を受取って、甥を取り巻いてはなを垂らしながら
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
家の側面にある白樫しろかしの下には、蟻が、黒い長い一列になつて進軍して居るのであつた。彼等の或るものは大きな家宝である食糧をかついで居た。
ことに電線が邪魔になる位な巨大な紙張りの人形を作り、それを日中からかつぎまわるなどは秋田能代のしろにも新潟にも宇都宮にもないことである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼の文学が軍国主義者にかつがれたのも、軍人のもつ表面的な気質と趣味、そのセンチメンタリズムと、反女性的な態度とによったものであった。
本当ほんとかね、お前さん、あまり出抜だしぬけで、私もかつがれるような気がするよ。じゃ、本当に立つとすると、今日何時だね。」
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
瀕死ひんしの者をかついでる男の肩に反射し、貧しい事物や凡庸ぼんような人々の上に広がって、すべてが温和になり聖なる栄光を帯びる。
其れからみんなして遺骸おからだを、御宅へかついでめえりましたが、——御大病の御新造様ごしんぞさま態々わざ/\玄関まで御出掛けなされて、御丁寧な御挨拶ごあいさつ、すると旦那
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そしてこの天幕のうちを、夢の姿を以て満しましょう。みんなに重い悲哀をかつがせて、よろよろと行き悩ませてやりましょう。
若党与作に素槍をかつがせ、同じく熊蔵を従えた主従十一人鎖帷子厳重に、馬子人足と共に二十人の一群、一文字の道を上野の城下へ乗入れてくる。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
と安子さんがかつがれたことを覚った時には、もう一方の縁側から忍び込んだ芳子さんが机の中の写真を盗み出していた。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
はじめにとびあがった男が、綱をかついで引きよせた。げんはぴったり棧にくっついた。けれどもひどく揺れた。先をあらそってとび上るからである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
かなり厖大ぼうだいなトランクを二つかついで来て、それぞれの位置にそれを置いて、自分は、一行の一番はずれに老紳士と並んで坐り、しきりに何か話し初めた。
動かぬ女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もつとも女に惚れられても、大した損はする男にあらず。永井荷風ながゐかふう、ゴンクウル、歌麿等うたまろらの信者なりしが、この頃はトルストイなどをかつぎ出すことあり。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしはわっと云ったのですが、それといっしょにわたしは電車に触れて気を失って、病院へかつぎ込まれていたのです
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼ハ郁子ヲかつギ込ンデカラソノママ寝室デウロウロシテイタノダガ、(腰掛ケルニモ餘分よぶん椅子いすガナイノデ、僕ノ寝台ト妻ノ寝台ノ間ニ立ッテイタ)
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
頗る背高のッぽうで、大の男四人の肩にかつがれて行くのであるが、其方へ眼を向けてみると、まず肩が見えて、次に長い疎髯まばらひげ、それから漸く頭が見えるのだ。
おくみにはかつがれて行く桶のなまぬるいやうな水に、赤い色がせぎ/\に動いてゐるのが目に見えるやうな気がした。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
ことに、小籠のかつぎ荷役が、ウインチ捲きになってから、急激に遭難者が増した。ロープが切れて落下した大籠の下敷きになって、死んだ者は多い。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
棺台に載せて、四人してかついだ。——そして、そのあとから、身寄りのもの、念仏衆、村のたれかれ、見物がてらの子守ツ子たちがぞろ/\と続いた。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
峠を越して少し下り道のところで若者に別れ、これからは独りでかなり重い道具をかついでゆく。何処どこも霧で、数間先もよく見えぬ、心細いこと夥しい。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
太田が用意された担架の上に移されると、二人の看病夫はそれをかついで病舎を出て行った。ふとった医務主任がうつむきかげんにその後からついて行く。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
つえには長く天秤棒てんびんぼうには短いのへ、五合樽ごんごうだる空虚からと見えるのを、の皮をなわがわりにしてくくしつけて、それをかついで
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
七八年前の冬休みに、うさぎを一匹もとめて、弟と交互かたみかついで、勤先から帰省したことが、ふと彼れの心に浮んだ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
一団の先頭には騎馬にまたがった反絵が立った。その後からは、たての上で輝いた数百本の鋒尖ほこさきを従えた卑弥呼が、六人の兵士にかつがれた乗物に乗って出陣した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
坂の中段もとに平生ふだん並んで居る左右二頭の唐獅子からじしは何処へかかつぎ去られ、其あとには中々馬鹿にはならぬ舞台花道が出来て居る。桟敷さじきも左右にかいてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)