雄々おお)” の例文
こうして清作せいさくさんは、じつにりっぱな軍人ぐんじんでした。だからまちとおると、おとこおんないて、その雄々おおしい姿すがたをながめたのです。
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
学者である以上、その態度は誠に立派なもので、ことごとく書を信ぜば書無きにかずといった孟子の雄々おおしさを髣髴ほうふつさせるのであります。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
また牡丹の牡は、春に根上からその芽が雄々おおしく出るから、その字を用いたとある。つまり牡は、さかんな意味として書いたものであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
愛憎の心理の機微を公平にとらえ、人生の風波に雄々おおしく耐えて、いっさいをほろ苦い微笑でつつもうとしているからだと思う。
うつくしき人はなかばのりいでたまいて、とある蒔絵まきえものの手箱のなかより、一口ひとふり守刀まもりがたなを取出しつつさやながらひきそばめ、雄々おおしき声にて
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後の世の人は、この母上の皇后の、いろんな雄々おおしい大きなお手柄てがらをおほめ申しあげて、お名まえを特に神功皇后じんぐうこうごうとおよび申しております。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
にも関らず、毎日、平然と奉行所に出仕して、あらゆる四囲の逆境と、おのれに打ちとうとしている姿は、何とも雄々おおしいものでおざる。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄と同じく怜悧れいりであり、精神的には兄よりもいっそう鍛錬されいっそう雄々おおしかったので——(男まさりのフランス婦人の多くは皆そうである)
ラインハルト合唱団の「吾等われら病める足を持ちて雄々おおしくも急げり」(第七八番)(J八六四〇)、以上二枚は傑出したレコードと言えるだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
みこと日頃ひごろの、あの雄々おおしい御気性ごきしょうとて「んのおろかなこと!」とただ一ごんしてしまわれましたが、ただいかにしてもないのは
葉子はだれにともなく手を合わして、一心に念じておいて、雄々おおしく涙を押しぬぐうと、そっと座を立って、倉地の寝ているほうへと忍びよった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
真淵は雄々おおしく強き歌を好み候へども、さてその歌を見ると存外に雄々しく強き者は少く、実朝の歌の雄々しく強きが如きは真淵には一首も見あたらず候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
石井氏は後日の健全な家庭をつくるためにと、綾之助を慰めておいて、雄々おおしくも志望を米国へのばしに渡った。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そも一秒時ごとに、汝と遠ざかりまさるなりなど、われながら日頃の雄々おおしき心はせて、児を産みてよりは、世の常の婦人よりも一層ひとしお女々めめしうなりしぞかし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その機械は、やがて送信所にえつけられ、全世界へ向って電波を出し始めるであろう。大東亜戦争だいとうあせんそうたたかっている雄々おおしい日本の叫びが、世界中にらされるのだ。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
次第に成長するにつけ、骨格ほねぐみ尋常よのつねの犬にすぐれ、性質こころばせ雄々おおしくて、天晴あっぱれ頼もしき犬となりけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
たった一つ残っているのは、人をきずつけないで、恋人を救う方法だ。昔からの女性が、この様な場合に、いつも選んだ雄々おおしい方法だ。不二子も遂にその決心をかためた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
都下砂村の有名な金魚飼育商の秋山が蘭鋳からその雄々おおしい頭の肉瘤にくりゅうを採り、琉金りゅうきんのような体容の円美と房々ふさふさとしたを採って、頭尾二つとも完美な新種を得ようとする
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と吉左衛門は言って、その駒の雄々おおしいたてがみも、大きな目も、取りつくはえをうるさそうにする尻尾しっぽまでも、すべてこの世の見納めかとばかり、なおもよく見ようとしていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何という雄々おおしいお心で御座いましょう。何という御親切で御座いましょう。もし私があの時に気絶せずにおりましたならば、どのような事になっておりましたでしょうか。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なるほど雄々おおしい美しい名には違いないが、それがややともするとうつろな人間の、しかもほんの上っ面に過ぎないような気がしてならない。さればといってどうすればいいか。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
空寒き奥州おうしゅうにまで帰る事はわずに旅立たびだち玉う離別わかれには、これを出世の御発途おんかどいでと義理でさとして雄々おおしきことばを、口に云わする心が真情まことか、狭き女の胸に余りて案じすごせばうるの、涙が無理かと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
帰らぬ十二の 雄々おおしきみたまに
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
うつくしき人はなかばのりいでたまひて、とある蒔絵まきえものの手箱のなかより、一口ひとふり守刀まもりがたな取出とりだしつつさやながらひきそばめ、雄々おおしき声にて
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
胸からのどもとにつきあげて来る冷たいそして熱いたまのようなものを雄々おおしく飲み込んでも飲み込んでも涙がややともすると目がしらを熱くうるおして来た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
真淵まぶち雄々おおしく強き歌を好み候えども、さてその歌を見ると存外に雄々しく強きものはすくなく、実朝さねともの歌の雄々しく強きがごときは真淵には一首も見あたらず候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
しかも身は平家の重恩ちょうおんをうけているので、雄々おおしくも、私情をすてて、老躯をここへ運んで来ておられる
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分じぶんたちのみじめな生活せいかつにくらべて、つねに、だれにすがるということなく、みずからのちからで、うみや、みずうみや、かわあさり、みなみからきたへ、きたからみなみへとわたって、雄々おおしく生活せいかつする
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
芸術に生き、芸術に滅びてもらいたかった。雄々おおしく戦って、痩枯やせがれたからだを舞台に横たえたとき、わたしたちはどんなに、どんなに彼女のために涙をおしまないだろう。讃美するだろう。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
両女の中の割合に心雄々おおしきはおっとの如き気風となり、やさしき方は妻らしく、かくて不倫ふりんの愛に楽しみふけりて、永年えいねんの束縛を忘れ、一朝変心する者あれば、男女間における嫉妬しっとの心を生じて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
私は諸戸屋敷の自分の居間に帰るまでに、雄々おおしくもこの様に心をめた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
葉子は倉地の最後の一言ひとことでその急所に触れられたのだった。葉子は倉地の目の前で見る見るしおれてしまった。泣くまいと気張きばりながら幾度も雄々おおしく涙を飲んだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
だれがるかしれないけれど、あとはくさってしまうだろう。しかしたものは、んだ仲間なかまぶんきのびてしげって、いくねんも、いくねん雄々おおしく太陽たいようかがやしたはなやかにらしてもらいたい。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
その花むこの雄々おおしかった事、花よめの美しかった事は燕の早口でも申しつくせませんかった。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ああ、まっすぐないいだこと。かぜにも、ゆきにもれないで、よくそだちましたね。ほんとうにつよい、雄々おおしいわかですこと。どんなにこのやまうえに一ひとりっているのではさびしいでしょうね。
山の上の木と雲の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
レオは雄々おおしくも裸かになって出て行った。さてレオが去った後、レオにかかる苦行くぎょうを強いながら、何事もなげに居残ったこのフランシスを神は厳しくむちうち給うた。眼ある者は見よ。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)