達人たつじん)” の例文
ところがそれからだいぶ経って、私が例の達人たつじんといっしょに、芝の山内さんない勧工場かんこうばへ行ったら、そこでまたぱったり御作に出会った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こゝに一だい事件じけん出來しゆつたいした、それはほかでもない、丁度ちやうどこのふね米國ベイこく拳鬪けんとう達人たつじんとかいふをとこ乘合のりあはせてつたが、このうわさみゝにして先生せんせい心安こゝろやすからず
今のふたりの立ち場は剣道の達人たつじんと達人とが、白刃はくじんをかまえてにらみあっているのと、少しもかわりはありません。気力と気力のたたかいです。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なるほど評判ひょうばんとおり、頼政よりまさ武芸ぶげい達人たつじんであるばかりでなく、和歌わかみちにもたっしている、りっぱな武士ぶしだと、天子てんしさまはますます感心かんしんあそばしました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しかし、いくら飛走の達人たつじんでも、どうして、いつのまにこんなところへきたんだろうと、竹童はじぶんのゆだんをつねって、目ばかりパチパチさせている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「水泳の達人たつじんは、自由に水の中を泳ぎまわる。水はその人にとって決して邪魔じゃまではない。それどころか……」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
れ——達人たつじんは——」声はいさゝかふるえて響きはじめた。余は瞑目めいもくして耳をすます。「大隅山おおすみやまかりくらにィ——真如しんにょつきの——」弾手は蕭々しょうしょうと歌いすゝむ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
マーキュ 昔話むかしばなし猫王チッバルトぢゃとおもうたらあてちがはう。見事みごと武士道ぶしだう式作法しきさはふ精通せいつうあそばしたお達人たつじんさまぢゃ。
長髯ちょうぜんをしごきながら「遠きおもんばかりのみすれば、必ず近きうれいあり。達人たつじんは大観せぬものじゃ。」と教えた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ずゐ沈光ちんくわうあざな總持そうぢ煬帝やうだいつかへて天下第一てんかだいいち驍捷はやわざ達人たつじんたり。ていはじめ禪定寺ぜんぢやうじ建立こんりふするときはたつるに竿さをたか十餘丈じふよぢやうしかるに大風たいふうたちまおこりてはた曳綱ひきづないたゞきよりれてちぬ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
百兩ぬすみし大盜人おほどろばうもとは越後浪人にて劔術けんじゆつ達人たつじんたりとか云が今御召捕めしとりになる時捕方とりかたの者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は彼をおもい出すたびに、達人たつじんという彼の名を考える。するとその名がとくに彼のために天から与えられたような心持になる。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坂本さかもとの町に弓術きゅうじゅつの道場をひらいて、都にまで名のきこえている代々木流よよぎりゅう遠矢とおや達人たつじん山県蔦之助やまがたつたのすけという者であるが、町の人は名をよばずに、今為朝いまためともとあだなしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元々もともと武芸ぶげい家柄いえがらである上に、まれ弓矢ゆみや名人めいじんで、その上和歌わかみちにも心得こころえがあって、礼儀作法れいぎさほうのいやしくない、いわば文武ぶんぶ達人たつじんという評判ひょうばんたかい人だったのです。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
くてたがひあひだ考案かうあんするひまありき。さすがに斯道しだう達人たつじんとて、積薪せきしんみゝすまして、ひそかにたゝかひ聞居きゝゐたり。とき四更しかういたりて、しうといはく、おまへ、おまけだね、つたが九目くもくだけと。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山岡鉄舟という人は、非常な剣道の達人たつじんで、しかも幕末の血なまぐさい頃に仂いた人だが、一生、人をったことのない人だそうだ。むろん戦場に出たら、そういうわけにも行かなかったろうさ。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
きく奴等やつらなり無刀流の達人たつじん後藤半四郎秀國が相手なるぞいざ出來いできた片端かたはしよりひねり殺して呉れんと大音聲によばはるにぞつれの町人はおのれが仕事の邪魔じやまになりてはならずと思ひしかば若々もし/\旦那樣だんなさまだれも何とも申は致しません貴方に對して過言くわごん申者の有べきやと種々さま/″\なだすかしサア/\を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「小娘ッ」まことは甲州流兵法こうしゅうりゅうへいほう達人たつじん小幡民部こばたみんぶが、こういってにらんだ眼光はるようだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしもの達人たつじん家康も、この愚かなる坊ンちには、まったく、出し抜かれたかたちになった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ、達人たつじんなるかな、と思うと同時に、大局に立って誤らぬには、人間やはりここまで肉体と髪の黒さを削らねばならぬか——と、秀吉は彼を見るごとにそぞろ気の毒になるのだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)