親不知おやしらず)” の例文
鯨波くぢらなみは少し雑沓しすぎる。あそこよりも設備はないが、親不知おやしらずあたりの方が、山も大きいし海も怒濤に富んでゐて、感じが好い。
談片 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
伏木ふしきから汽船に乗りますと、富山の岩瀬、四日市、魚津、泊となって、それから糸魚川いといがわせき親不知おやしらず、五智を通って、直江津へ出るのであります。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
越後の親不知おやしらずの海岸に近い青木阪の不動様は、越後信州東京の方の人は、不動様といって拝み、越中から西の人は、乳母様と称えて信心していました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
非常に寒い、北陸地方は例の通り風雪で、親不知おやしらずあたりはまた鉄道が不通だ。今日は「うらしま」第二幕(改作)十六枚書いた。宵のうち高梨を訪ねてまた麿さんとかるたした。
彼らは、石炭と海との親不知おやしらず、石炭と石炭との山の谿間たにまを通って、夕張ゆうばり炭山へ続いている鉄道線路を越して、室蘭の市街へ出た。そのまちは、昼も夜のように寂しい感じのする街であった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
第六日、姫川を下って大野村から自動車に乗り糸魚川いといがわにいたる。後親不知おやしらずの嶮を見、市振いちふりで午後五時三十七分の汽車に乗れば、金沢へ同九時二分着、第七日、自動車を尾添川の出合で下りる。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
青木愛之助が、その親不知おやしらずみたいな細道を通り抜けようとした時だ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あんなに憧憬あこがれていた裏日本の秋は見る事が出来なかったけれども、この外房州は裏日本よりも豪快な景色である。市振から親不知おやしらずへかけての民家の屋根には、沢庵石のようなのが沢山置いてあった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
一行は、親不知おやしらずけんをこえ、越後にはいり、越水おちみず宿しゅくまで来た。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとつが越後親不知おやしらずの因縁噺で「累草紙かさねぞうし」。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
めくらにして七十八歳のおきなは、手引てびきをもれざるなり。手引をも伴れざる七十八歳のめくらの翁は、親不知おやしらずの沖を越ゆべき船に乗りたるなり。衆人ひとびとはその無法なるにおどろけり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頃日このごろく——當時たうじ唯一ゆいつ交通機關かうつうきくわん江戸えど三度さんどとなへた加賀藩かがはん飛脚ひきやく規定さだめは、高岡たかをか富山とやまとまり親不知おやしらず五智ごち高田たかだ長野ながの碓氷峠うすひたうげえて、松井田まつゐだ高崎たかさき江戸えど板橋いたばしまで下街道しもかいだう
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其處そこ各自めい/\が、かの親不知おやしらず子不知こしらずなみを、巖穴いはあなげるさまで、はひつてはさつつゝ、勝手許かつてもと居室ゐまなどのして、用心ようじんして、それに第一だいいちたしなんだのは、足袋たび穿はきもので、驚破すは
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
有磯海ありそうみから親不知おやしらずの浜を、五智の如来にょらいもうずるという、泳ぐのに半身を波の上にあらわして、列を造ってくとか聞く、海豚いるかの群が、毒気を吐掛けたような入道雲の低いのが、むくむくと推並おしならんで
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田舎はいやだと駄々をねるのを、守膳が老功でなだすかし、道中土をまさず、ゆるぎ殿のお湯殿子ゆどのこ調姫しらべひめという扱いで、中仙道は近道だが、船でもおかでも親不知おやしらずを越さねばならぬからと、大事を取って
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上京じやうきやうするのに、もうひとつの方法しかたは、金澤かなざはから十三里じふさんり越中ゑつちう伏木港ふしきかうまで陸路りくろたゞ倶利伽羅くりからけんす——伏木港ふしきかうから直江津なほえつまで汽船きせんがあつて、すぐに鐵道てつだうつゞいたが、まをすまでもない、親不知おやしらず
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
疑うべき静穏せいおん! あやしむべき安恬あんてん! 名だたる親不知おやしらずの荒磯に差懸さしかかりたるに、船体は微動だにせずして、たたみの上を行くがごとくなりき。これあるいはやがて起らんずる天変の大頓挫だいとんざにあらざるなきか。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)