見晴みはらし)” の例文
「奥の離座敷はなれざしきだよ、……船の間——とおいでなすった。ああ、見晴みはらし、と言いてえが、暗くッて薩張さっぱり分らねえ。」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこはちょっとした見晴みはらしで、打開けた一面の畑の下に、遠くどこの町とも知れない町が、雲と霞との間からぼんやりと見える。しばらくそれを見ていたが、たしかに町に相違ない。
「どうぞ此方こちらへおいであそばしまして。ここが一番見晴みはらしよろしいのでございます」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お島の導かれたのは、ある古い家建やだち見晴みはらしのいい二階の一室であったが、女中に浴衣ゆかたに着替えさせられたり、建物のどん底にあるような浴場へ案内されたりするたんびに、一人客の寂しさが感ぜられた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その突当りの、柳の樹に、軒燈の掛った見晴みはらしのいい誰かの妾宅しょうたくの貸間に居た、露の垂れそうな綺麗なのが……ここに緋縮緬の女が似たと思う、そのお千さんである。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのくずれが豊国へ入って、大廻りに舞台がかわると上野の見晴みはらし勢揃せいぞろいというのだ、それから二にん三人ずつ別れ別れに大門へ討入うちいりで、格子さきで胄首かぶとと見ると名乗なのりを上げた。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梓が上京して後東京の地において可懐なつかしいのは湯島であった。湯島もその見晴みはらしの鉄の欄干にって、升形の家が取囲んでいる天神下の一かくながめるのが最も多く可懐しかった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おい邪魔じやまになるとわるいよと北八きたはちうながし、みちひらいて、見晴みはらしのぼる。にし今戸いまどあたり、ふねみづうへおともせず、ひといへ瓦屋根かはらやねあひだ行交ゆきかさまるばかり。みづあをてんあをし。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やがて東華門とうくわもんいたると、こゝに、一大旅店いちだいりよてん築地つきぢホテルとかまへのがある。主人しゆじん此處こゝに、と少年せうねんみちびくまゝに、階子はしごのぼつて、手代てだい二階にかい一室いつしつ表通おもてどほりの見晴みはらしふのへとほる。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)