蜘蛛手くもで)” の例文
見上ぐる山の巌膚いわはだから、清水は雨にしたたって、底知れぬ谷暗く、風はこずえに渡りつつ、水は蜘蛛手くもでそばを走って、駕籠は縦になって、雲を仰ぐ。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのこちら側には願人坊主の講元があるといったような、士、工、商、雑居の吹き寄せ町で、そのごちゃごちゃと蜘蛛手くもでに張られた横路地を
蜘蛛手くもでに延びている無数の廊下! 廊下の左右には室の扉がズラリと一列に並んでいた。私は室の扉を叩いて見た。誰も中から返辞をしない。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしていきなり、脇差を抜き、片手にふるって、蜘蛛手くもでに張り廻した帆綱ほづな帆車ほぐるま、風をはらみきった十四反帆! ばらばらズタズタ斬り払った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この広い倫敦ロンドン蜘蛛手くもで十字に往来する汽車も馬車も電気鉄道も鋼条鉄道も余には何らの便宜をも与える事が出来なかった。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
歳暮せいぼ大売出しの楽隊の音、目まぐるしい仁丹じんたんの広告電燈、クリスマスを祝う杉の葉のかざり蜘蛛手くもでに張った万国国旗、飾窓かざりまどの中のサンタ・クロス
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その上祥雲寺しょううんじ門前からここまで、蜘蛛手くもでの細い路地を拾ってあんな具合に飛んで来るのは、『千里の虎』でなきゃアふくろ
「ほら、花火だよ、綺麗きれいだねえ……」みんなの眺めている空の一角に、ときどき目のさめるような美しい光が蜘蛛手くもでにぱあっとはじけては、又ぱあっと消えてゆくのを見ながら
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
記者はこうして、九月初めから十月なかばまでの東京市中を、縦横むじんにあるきまわった。蜘蛛手くもで掻く縄十文字に見てまわった。用事の隙々ひまひまや電車待つにはスケッチも試みた。
舞台の上方、一文字幕いちもんじまくかげには、蜘蛛手くもでになって、あらゆるからくり仕掛けが張りめぐらしてある。浅黄幕あさぎまくの太い竹竿たけざお、照明の電球を取りつけたたな、本雨の水道管、紙の雪を降らせるかご
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
電線はりがね蜘蛛手くもでの上の二十日はつかの月あはれなるかも片時雨して
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「どうして、ここらの道は蜘蛛手くもでになっていて、迷い込んだがさいご、皆目、出道のわからぬ何とかのやぶ知らずも同然だ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上祥雲寺しやううんじ門前から此處まで、蜘蛛手くもでの細い路地を拾つてあんな具合に飛んで來るのは、『千里の虎』で無きアふくろ
絶えず続いて、音色ねいろは替っても、囃子はやしは留まらず、行交ゆきかう船脚は水に流れ、蜘蛛手くもでに、つのぐむあしの根をくぐって、消えるかとすれば、ふわふわと浮く。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「小癪な!」とかわした宗三郎、左手を放すと右の手で、大きく廻して横なぐり、きまれば円明の蜘蛛手くもでとなる。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其処には丁度赤と青との花火が、蜘蛛手くもでに闇をはじきながら、まさに消えようとする所であつた。明子には何故かその花火が、殆悲しい気を起させる程それ程美しく思はれた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
周馬は先に、その一挺の駕へ寄り、お千絵の体をれの中へはねこんだ。そして、手早く細曳ほそびきを引ッぱずして、駕のまわりを蜘蛛手くもでにかがりだす。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大掃除おほさうぢときに、床板ゆかいたはがすと、した水溜みづたまりつてて、あふれたのがちよろ/\と蜘蛛手くもではしつたのだから可恐おそろしい。やしき……いや座敷ざしききのこた。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蜘蛛手くもでのように織られていたが、それの一つへ投げ込まれたが最後、死人であろうと、怪我人であろうと、犬や猫のように扱われて、死人は下手人も探されず、そのままどこかへ片寄せられ
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と続いてり込んで来た前後左右の乱刀をも、しばらくバラバラと蜘蛛手くもでに受け払っていたが、すッくと岩から立ち上がるが早いか、手当り次第に帯
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死んだは、きたは、本宅の主人へ電報を、と蜘蛛手くもでに座敷へ散り乱れるのを、騒ぐまい、騒ぐまい。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蜘蛛手くもでに造られてある廊下の諸所で、人獣争闘が行われた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
万事休ばんじきゅうす——伊那丸は完全に、蜘蛛手くもでかがりという野武士のぶしの術中におちてしまったのだ。身につばさでもないかぎりは、このわなからのがれることはできない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此處こゝもりあへふかしといふにはあらねど、おしまはし、周圍しうゐ樹林きばやしにて取卷とりまきたれば、不動坂ふどうざか團子坂だんござか巣鴨すがもなどに縱横たてよこつうずる蜘蛛手くもでみちは、あたか黄昏たそがれ樹深こぶか山路やまぢ辿たどるがごとし。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
がしかし、いまは何をいってるいとまもありません。さい大臣の厳命から北京ほっけい大名府の手配まで、蜘蛛手くもでに行き渡っているといいます。なんとて、のがれえましょうや
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
線路へ出て、ずっと見ると、一面の浜田がどことなく、ゆさゆさ動いて、稲穂いなぼの分れ伏した処は幾ヶ所ともなしに細流せせらぎ蜘蛛手くもでに走る。二三枚空が映って、田の白いのはかぶったらしい。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
既に今も、新九郎の一命を乗せて、怖ろしい蜘蛛手くもでかがりの駕は、冥府めいふの門へ息杖を振り込んで行く——
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屈竟くつきやうなる壯佼わかものしたるが、くるまゆるやかに、蜘蛛手くもでもり下道したみちを、ひといへたづなやみつとおぼしく、此處こゝ彼處かしこ紫陽花あぢさゐけりとところかならず、一時ひとときばかりのあひだ六度むたび七度なゝたびであひぬ。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とたんに、もんどり打ッたのは、蜘蛛手くもでに張ってあったわなの一すじに足もとをすくわれたものらしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……梢の風は、雨の如く下闇したやみの草のこみちを、清水が音を立てて蜘蛛手くもでに走る。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)