芥溜ごみため)” の例文
打ちった過去は、夢のちりをむくむくとき分けて、古ぼけた頭を歴史の芥溜ごみためから出す。おやと思うに、ぬっくと立って歩いて来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、あたまだけぜんすみへはさみすと、味噌みそかすに青膨あをぶくれで、ぶよ/\とかさなつて、芥溜ごみため首塚くびづかるやう、てられぬ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「皆さん、商売の方も不景気ですよ。芥溜ごみためだってお話になりません。物を捨てる人なんかもうひとりもいません。何でも食べてしまうんですね。」
そこで米友が思うには、これを打捨うっちゃるにしても不動尊である、有難がっても有難がらなくっても、不動明王のおすがたである。芥溜ごみための中へ打捨るわけにはゆかない。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
当然残肴が出たわけだが、今朝ひょいと芥溜ごみためをのぞくと、堀川牛蒡ほりかわごぼうその他がそっくりそのまま捨ててある。せっかく苦心して、うまくこしらえた高級野菜である。
残肴の処理 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
もうこの上に詮議の仕様もないので、八太郎はその西瓜を細かく切り刻んで、裏手の芥溜ごみために捨てさせた。
西瓜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
竹で死体をいたら、ペロリと血だらけの模型卵をいた。此頃一向卵が出来ぬと思ったら、此先生が毎日召上めしあがってお出でたのだ。青大将の死骸しがい芥溜ごみために捨てた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ああそうだろう、源左は馬鹿で間が抜けてるからな、いつも芥溜ごみためばかり引掻ひっかき廻して、痛ッ」
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
南と北から家屋が建てこめているため、常に日光に遮られている薄暗い道路の行当りに、芥溜ごみためが見える、そこにミノルカではないが大きな黒い一羽の鶏が餌をあさっている。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
「乞食よりも意気地がなくて、ぬすよりもふて芥溜ごみため牢人と思っているが、それがどうした」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大体土瓶の運命ははかないもので、口がこわれ、ふたれ、耳がもぎれ、それに火という敵と闘わねばなりません。その末路を芥溜ごみため溝泥どぶどろの中に見かけることは珍らしくありません。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
之れに據ると多數人民と云ふものは芥溜ごみための肥料のやうなものである、其中に少數の役に立つものが、丁度美麗な草木が出て來て花が咲くやうに、出て來ると云ふ樣な想像を有つて居る。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
キミ子の肉体すらもすでに他所々々よそよそしかつたが、太平は芥溜ごみためをあさる犬のやうに掻きわけて美食をあさり、他所々々しさも鬼の目も顧慮しなかつた。陰鬱な狂つた情慾があるだけだつた。
外套と青空 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
わが眠りし間に幸助いずれにか逃げせたり、来たれ来たれ来たれともに捜せよ、見よ幸助は芥溜ごみためのなかより大根の切片きれ掘りだすぞと大声あげて泣けば、うしろより我子よというは母なり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
突當りの芥溜ごみためわきに九尺二間の上りかまち朽ちて、雨戸はいつも不用心のたてつけ、流石に一方口にはあらで山の手の仕合は三尺斗の椽の先に草ぼう/\の空地面それが端を少し圍つて青紫蘇あをじそ、ゑぞ菊
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御飯をたべなければ、おなかがすきますし、お腹がすいたからって、芥溜ごみためをあさるようなことはしちゃあいけません。わたしたちの仲、濁ってるとお思いになりますか。いいえ、濁ってなんかいません。
「へッ。芥溜ごみため野郎。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのはずで、愛の奴だって、まさか焼跡の芥溜ごみためからいて出た蚰蜒げじげじじゃありません。十月腹を貸した母親がありましてね。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「革命家を悪口しちゃいけねえぜ、芥溜ごみため婆さん、このピストルもお前のためのものだ。前の負いかごにもっと食えるようなものを入れてやるためだ。」
突当りの芥溜ごみためわきに尺二けんあががまち朽ちて、雨戸はいつも不用心のたてつけ、さすがに一方口いつぱうぐちにはあらで山の手の仕合しやわせは三尺ばかりの椽の先に草ぼうぼうの空地面、それがはじを少し囲つて青紫蘇あをぢそ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この屋根の上にあしが生えて、台所の煙出けむだしが、水面へあらわれると、芥溜ごみためのごみがよどんで、泡立つ中へ、この黒髪がさかさに、たぶさからからまっていようも知れぬ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突當つきあたりの芥溜ごみためわきに九しやくけんあががまちちて、雨戸あまどはいつも不用心ぶようじんのたてつけ、流石さすがに一ぱうぐちにはあらでやま仕合しやわせは三じやくばかりゑんさきくさぼう/\の空地面あきぢめん、それがはじすこかこつて青紫蘇あをぢそ、ゑぞぎく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三ツ四ツ年紀としもたけ、ろうたさも、なおまさりながら、やや人にれ、世に馴れて、その芥溜ごみためといえりし間、浮世のなみに浮沈みの、さすらいの消息の、ほぼ伝えらるるものがあったのである。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芥溜ごみためを探したか、皿からさらったか、笹ッ葉一束、棒切のさきへ独楽なわで引括ひっくくった間に合せの小道具を、さあ来い、と云う身で構えて、駆寄ると、若い妓の島田の上へ突着けた、ばさばさばッさり。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)