白痴ばか)” の例文
旧字:白癡
その時は早や、夜がものにたとえると谷の底じゃ、白痴ばかがだらしのない寐息ねいきも聞えなくなると、たちまち戸の外にものの気勢けはいがしてきた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先づ第一番に白痴ばかの猪之助——この男は取つて二十九の良い若い者だが、釘が一本足りないばかりに、まともな仕事が出來ねえ。
「どうしても普通なみの人間では無い。不具かたわでは……白痴ばかでは無論ないけれども確に普通なみではない。あれで人間としての價値があるだらうか。」
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「えい、白痴ばかめが、とく参って、鄭重ていちょうごと致した上、御嶽冠者殿参った時のみ使用致す『鳳凰ほうおうの間』へ謹しんでお移し申すがよいわ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白痴ばかでも狂人でもないんじゃから、ほかの兄弟並に扱わにゃならんし、なおさら始末に困るが、どうも不思議な人間じゃ
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
孔生はそれから読書することをやめて白痴ばかのように坐り、すがって生きて往く物のないようなさまであった。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「それアそうさ。私だってそんな白痴ばかじゃないよ。」と、お庄は磯野との関係以来、自分がさもだらしのない女のように、みんなに思われているのが切なかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
頬被りをしてわざと裏口から清水屋へはいって行った藤吉は、白痴ばかのようにしょげ返っている伝二郎を風呂場の蔭まで呼び出して、優しくその肩へ手を置いた。
しかしいくら試みても光った銀貨が落ちないのを知ると白痴ばかのようににったりと独笑ひとりわらいをもらしていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
追いまわす。それも白痴ばかのケティとは、呆れたもんだと思うよ。ケティは……やはり白痴で醜い女さ。ただ、それをみる君たちの目が、妙な工合に違ってきただけなんだ
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
然るに、地上の白痴ばかは、群集して禮拜する。白痴の信仰は、感動でなくして、恐怖である。
散文詩・詩的散文 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
藍丸王がもし当り前の人間ならば、こんないろいろの疑いを起して青眼にその仔細わけを尋ねるであろう。ところが藍丸王は旧来もとの白髪小僧の通り白痴ばか呑気のんきでだんまりであった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「わしの屋敷で使っていた下男だがのう、猿のたたりで崖から堕ちて白痴ばかになってしまっただ、かわいそうに良い男だったが、——ずっと前、そうだ、柿のってる時分だっただ」
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
我々犬の方が遥に人間様の君達よりは優等躰格なんだ。余り白痴ばかにして貰うまいよ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「うっかりぽんとして白痴ばかみてえにだらだら歩いてけつかるからだ、でれ助阿女」
錦紗 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
なんだってお前は鳥のまねなんぞした、え、なんだって石垣いしがきから飛んだの?……だって先生がそう言ったよ、六さんは空を飛ぶつもりで天主台の上から飛んだのだって。いくら白痴ばかでも、鳥のまねを
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
白痴ばかか、狂氣か、不具かたはか、唖か、墮胎藥おろしぐすりまされた
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あの子は白痴ばかなのかい?」と訊いた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
白痴ばか忠太ちゆうたは手をたたく。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
(すこし白痴ばかか)
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
したしげにせて、かほ差覗さしのぞいて、いそ/\していふと、白痴ばかはふら/\と両手りやうてをついて、ぜんまいがれたやうにがつくり一れい
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
白痴ばかの猪之助の家は名取屋の店と並んだやうになつて、獨り者の猪之助は、取殘されでもした樣な恰好で、ぼんやり外を眺めて居りました。
「そうだ俺は白痴ばかかもしれない。とにかく城主はこの俺を、翻弄ほんろうしようとしているのだ」不快に思わざるを得なかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白痴ばかでも狂人きちがひでもないんぢやから、外の兄弟並に扱はにやならんし、尚更仕末に困るが、どうも不思議な人間ぢや。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
孫はまだもとの所に白痴ばかのようになって立っていた。友人達は声を揃えて呼んでみたが、孫は返事もしなければ見向きもしなかった。友人達は皆で往って引っぱった。
阿宝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
白痴ばかか茶番か、女は自分で今買い取った鎧櫃のふたをあけて、裾を押えてはいり込もうとしている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「泣くな。お前は少しも白痴ばかぢやない。ただ運の惡い、不幸な氣の毒の子供なのだ。」
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ナア君、君等の方にもういふ白痴ばかがあるか子。此奴こいつは小説家でも屑の方だらう子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
けれども白痴ばかの白髪小僧の藍丸王は、相変らず悠々と落ち付いて、まるで生れながらの王ででもあるように、ニコニコ笑いながら澄まし込んで、大勢の家来に平常ふだんよりずっと気高く有り難く思わせた。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
と親しげに身を寄せて、顔を差しのぞいて、いそいそしていうと、白痴ばかはふらふらと両手をついて、ぜんまいが切れたようにがっくり一礼。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白痴ばかのくせに妹分のお駒に懸想して、蚯蚓みゝずののたくつたやうな手紙を書いて、人の惡いお駒に飜弄ほんろうされて居たことが判つた位のものでした。
後に残った大物主おおものぬしが、いかに憮然とし呆然としたかは、説明するには及ぶまい。彼は白痴ばかのように立っていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
長いこと、白痴ばかのようにぼんやりと、つめたい板の間にすわったきりだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
俺は尋常たゞ地犬ぢいぬサ。まじりツけない純粋の日本犬につぽんいぬだ。耳の垂れた尻尾を下げたの碧い毛唐の犬がやつて来てから、地犬々々と俺の同類を白痴ばかにするが、憚りながら神州の倭魂やまとだましひを伝へた純粋のお犬様だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「あすこに白痴ばかが歩いて行く。」さう言つて人人が舌を出した。
其時そのときや、よるがものにたとへるとたにそこぢや、白痴ばかがだらしのない寝息ねいききこえなくなると、たちまそとにものゝ気勢けはひがしてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「旦那、見込違ひで御座いました。新助といふ男は、人を殺せるやうなたちの人間では御座いません。あれは商賣外の事は白痴ばかも同樣の男で御座います」
僕は正直に云うけれど、彼女の前で君のことをどんなに悪様あしざまののしったろう。彼奴あいつ白痴ばかで無節操でロマンチックの生地いくじ無しだ! このように僕は云ったものだ。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
憚乍ら口惜しけりや腕ツコキで來い、白痴ばか
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
そのころからいつとなく感得したものとみえて、仔細しさいあって、あの白痴ばかに身を任せて山にこもってからは神変不思議、年をるに従うて神通じんつう自在じゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
定吉の性質や、お駒との關係も知つて居るので、お仙は何も彼も讀み盡して、白痴ばかな子を處刑おしおきにされるよりはと、女心の淺墓な親子心中をしたのだらう。
白痴ばかの一念というのでもあろう。思い込まれたお妻という太夫にも、おれは大いに同情するよ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「皆が私を苛めるの。白痴ばかだつて言ふの。」
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
婦人をんな衣服きものひツかけて椽側えんがははいつてて、突然いきなりおびらうとすると、白痴ばかしさうにおさへてはなさず、げて。婦人をんなむねおさへやうとした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
娘の美色は、セレナーデを奏する塀外の騎士ナイト達ばかりでなく、肉身の親までも白痴ばかにして居る様子でした。
白痴ばかか、子供か、臆病者か、そんなような憐れな声を上げて、こうイエスはお祈りをした。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
娘の美色は、セレナーデを奏する塀外の騎士ナイト達ばかりでなく、肉親の親までも白痴ばかにしてゐる樣子でした。
従七位は、白痴ばかの毒気を避けるがごとく、しゃくを廻して、二つ三つ這奴しゃつの鼻のささを払いながら
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「髪がバラバラに乱れている。襟がダブダブにひらけている。裾がめちゃくちゃに崩れている。白痴ばか狂人きちがいのありさまだ! 俺はいったいどうしたのだ! ……今夜は俺には不思議な晩だ!」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それより外に考へやうがないよ。あれは白痴ばかだが、白痴のくせに、恐ろしく惡賢こいところがある」