うずま)” の例文
バサリと音して、一握ひとにぎりの綿が舞うように、むくむくとうずまくばかり、枕許の棚をほとんどころがって飛ぶのは、大きな、色の白いひとりむしで。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トコトン/\、はらり/\、くるりと廻り、ぶんと飛んで、座はただ蠅でおおはれて、はておびただしいかなうずまく中に、幼児おさなごは息がとまつた。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かずきの外へ躍出おどりいでて、虚空こくうへさっと撞木しゅもくかじうずまいた風に乗って、はかまくるいが火焔ほのおのようにひるがえったのを、よくも見ないで
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
凄まじい霰の音、八方から乱打みだれうつや、大屋根の石もからからと転げそうで、雲のうずまく影が入って、洋燈ランプの笠が暗くなった。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身動みじろぎもせず聞きんだ散策子の茫然ぼんやりとした目の前へ、紅白粉べにおしろいの烈しいながれまばゆい日の光でうずまいて、くるくると廻っていた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なびくに脈を打って、七筋ながら、処々ところどころ、斜めに太陽の光を浴びつつ、白泡立ててうずまいた、そのすごかった事と云ったら。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中央の木目もくめからうずまいて出るのが、池の小波のひたひたと寄する音の中に、隣の納屋の石を切るひびきに交って、繁った葉と葉が擦合すれあうようで、たとえば時雨しぐれの降るようで
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいを入れた字のあとは、断々きれぎれになつて、あたかも青いへびが、うずまき立つ雲がくれに、昇天をする如くなり
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しずかに放すと、取られていた手がげっそりせて、着た服が広くなって、胸もぶわぶわとしわが見えるに、きっと目をみはる肩に垂れて、うずまいて、不思議や、おのが身は白髪になった
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒雲一団うずまく中に、鷲は一双の金の瞳をいからしたが、ぱっと音を立てて三たび虚空こくうに退いた。二ツ三ツ四ツ五ツばかり羽は斑々として落ちて、たたかいの矢を白い花の上に残した。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むらむらと両方から舞台際ぶたいぎわへ引寄せられると、煙がうずまくように畳まれたと言います。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて私のからだは何の事はないうずまいて来る人間の浪の中に巻込まれてしまいました。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
要こそあれ滅多あたりこぶしを廻して、砂煙のうずまくばかり、くるくる舞して働きながら、背後うしろから割って出て、柳屋の店頭みせさき突立つったった、蚰蜒眉げじげじまゆの、猿眼さるまなこの、ひょうの額の、熟柿じゅくし呼吸いきの、蛇の舌の
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かっする下に、どぶり、どぶり、どぶり、と浪よ、浪よ、浪ようずまくよ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うずまいて寄する風の音、遠きかたよりうなり来て、どつと満山まんざんうちあたる。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
言う時、煉瓦造れんがづくりの高い寄宿舎の二階から一文字に懸けてあるくろがねといが鳴って、深い溝を一団の湯気が白々とうずまあがった。硝子窓がらすまど朦朧もうろうとして、夕暮の寒さが身に染みるほど室の煖まるのが感じらるる。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)