気高けだか)” の例文
旧字:氣高
まだはっきりとは今日までよく見なかった女は、貴女きじょらしい気高けだかい様子が見えて、この身分にふさわしくない端麗さが備わっていた。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
十三絃じゅうさんげんを南部の菖蒲形しょうぶがたに張って、象牙ぞうげに置いた蒔絵まきえした気高けだかしと思う数奇すきたぬ。宗近君はただ漫然といているばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて身のたけ二丈ばかりの鬼が現れて、口からほのおを吹きながら夫婦を苦しめるかと思うと、気高けだかい老僧が出て来て鬼を追い拂った。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この活玉依姫いくたまよりひめところへ、ふとしたことから、毎晩まいばんのように、たいそう気高けだかいりっぱな若者わかものが、いつどこからるともなくたずねてました。
三輪の麻糸 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
貴嬢がかかる気高けだかき兄君をもちたもうことはわれらまことに知らざりき、まして貴嬢が鎌倉の辺に遊びたもうは始めての由を聞き
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
けれど、その二枚の押絵をあおのいて見ておりますうちに私は何かしら、或る気高けだかい力に引き立てられて行くような気持ちになりました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし時にはこの森にきこえてくるのがほんとうに気高けだかく心をゆりうごかす調べであり、ほまれをうたうラッパと聞きなされ
岡が少し震えを帯びた、よごれっちりほどもない声の調子を落としてしんみりと物をいう様子にはおのずからな気高けだかいさびしみがあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
よわいもうとは、にいっぱいなみだをためてうつむいていました。すると、気高けだかい、さびしいあねは、やさしくいもうとをなぐさめて
王さまの感心された話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
玄関に立った姿はたれが見ても千石以上取る旗下はたもとの次男、ひんと云い愛敬と云い、気高けだかいから取次の安兵衞は驚いて頭を下げ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、クララはその頃すでに天才少女ピアニストとして知られ、世にも美しく気高けだかく、それにもまして賢い少女であった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
醜行しうかうの婦女もこの光によりて貞操の妻、徳行の処女よりも美しく見え、盗賊のおもても救世主の如く悲壮に、放蕩児ほうたうじの姿も王侯の如くに気高けだかく相成り候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
山間さんかん湖水こすいのようにった、気高けだかひめのおかおにも、さすがにこのとき情思こころうごきがうす紅葉もみじとなってりました。わたくしかまわずいつづけました。——
月の光に化粧された、その女の容貌きりょうが、余りにも美しく余りにも気高けだかく、あまりにもろうたけていたからである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とたがいにいましめあって、ふたたび道をいそぎだすと、あなたの草むらから、月毛つきげ野馬のうまにのったさげがみの美少女が、ゆらりと気高けだかいすがたをあらわした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
因幡紙いなばがみ」の名で知られ、八頭やず郡の佐治さじとか、気高けだか郡の日置村とか、その他の漉場からこうぞの紙が出されます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あの赤坊あかんぼう奇麗きれいかは知りませんが、アノ従四位様のお家筋に坊の気高けだかい器量に及ぶ者は一人もありません。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
番小屋ばんごやはいるとすぐ飛出とびだしてあそんであるいて、かへると、御飯ごはんべて、そしちやあよこになつて、母様おつかさん気高けだかうつくしい、頼母たのもしい、温当おんたうな、そしてすこせておいでの
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三にはまた浪子のつつしみ深く気高けだかきを好ましと思う念もまじりて、すなわちその人を目がけしなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
堂内はゴシツク式建築の大寺院の例に漏れず薄暗い中に現世げんせかけ離れた幽静いうせいを感ぜしめ、幾つかの窓の瑠璃るりに五しきいろどつた色硝子ガラスが天国をのぞく様に気高けだかく美しい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そしてその首をしっぽのそばにおいて、三べんお祈りをしますと、今まで馬の死骸だと思ったのが、ふいに気高けだかい若い王子になりました。それは王女のおあにいさまでした。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
香取の一層赧らんだ気高けだかい顔は柳の糸で隠された。馬は再び王宮の方へけて行った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
『あたしは、気高けだかい、きよらかなもののことを考えているのです。』と、婦人は答えた。
むりやりにかつぎこみはしたものの、いざそばに見るとその気高けだかい処女の威におされて、さすがの左膳も弥生には手が出せず、今はただ雲竜双刀のみを守って弥生は大切に取り扱い
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さて今いづれの国にもせよ、百人の人あり、その中九十七人はむつまじく付合往来するところへ、三人は天から降りたるもののやう気高けだかく構へ、別に仲間を結んで三人の外は一切交りを絶ち
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御嶽おんたけの雪のはだ清らかに、石楠しゃくなげの花の顔気高けだかく生れついてもお辰を嫁にせんという者、七蔵と云う名をきいては山抜け雪流なだれより恐ろしくおぞ毛ふるって思いとまれば、二十はたちして痛ましや生娘きむすめ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
見れば、白木造しらきつくりのささやかな家の中に自分は寝ているのでした。枕もとには一人の気高けだかい人が座っていました。まっ白な服装ふくそうをし、頭に白布を巻いた、年齢としのほどはわからない人でした。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
朦朧もうろうとはしながらも、烏帽子えぼしの紐を長くむすび下げた物ごしは満更まんざら狐狸こり変化へんげとも思われない。殊に黄色い紙を張った扇を持っているのが、あかりの暗いにも関らず気高けだかくはっきりと眺められた。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして又、その時ほど梅の花が純潔じゅんけつに、気高けだかく見えることは無いのです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
姉さんのエルネスチイヌは優しきこと天使のごとしだし、兄貴のフェリックスは心ばえいとも気高けだかく、旦那さんは、資性廉直しせいれんちょく、判断に狂いがない。奥さんは、こりゃ、まれに見る料理の名人だ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
遠くはなれた存在だった、ずっと前に書いたものには、気高けだかき人とか麗人とか、ありきたりの、誰しもがいうようなめことばを、ならべただけですんでいたが、そんなお座なりをいうのはいやだ。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
自分は十一、二歳から歴史と文学書とが好きで、家の人に隠して読みふけったが、天照大御神あまてらすおおみかみの如き処女天皇の清らかな気高けだかい御一生がうらやましかった。伊勢いせ斎宮さいぐう加茂かもの斎院の御上おんうえなどもなつかしかった。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そのふるまひにはおのずか気高けだかき処ありて、かいなでの人と覚えず。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
我、久しきより羅馬の民は、気高けだかたまを持てると信ぜり
森と言へば叢立むらだつ霧のこちごちに気高けだかく厚くとりで立てたる
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たへ気高けだか眼差まなざしも、世の煩累わづらひみしごと
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
最も気高けだかい天使の顔でもなかった
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
気高けだか過ぎて……」と男の我をたすけぬをもどかしがって女は首を傾けながら、我からと顔の上なる姿を変えた。男はしまったと思う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
后腹きさきばらの宮は皆気高けだかくお美しい中にも、風流男みやびおの名を取っておいでになる兵部卿の宮はやはりすぐれて御風采ふうさいがりっぱにお見えになった。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なぜなら、夫人の品のよい端麗な顔は、そう云う風に真面目まじめに打ち沈んでいる時が、最も美しく、気高けだかく感ぜられるからである。
驢馬ろばに至るまであざやかに浮かびでしが、たちまちみな霧に包まれて消え、夢に見し春の流れの岸に立つ気高けだか少女おとめ現われぬ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いつもかまどのはいすみこなにまみれたみにくい下司女げすおんなではなくって、もう天人てんにん天下あまくだったかとおもうように気高けだかい、十五、六のうつくしいおひめさまでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
詩人もしくは芸術家がいかほどうるわしく気高けだかい構図をえがいたにもせよ、少なくとも後世子孫の誰かがそれを実現しえなかったということは未だかつてない。
わけても「第九交響曲」の如きは、人類の持てる芸術の最高のもので、その気高けだかき力強さは言語に絶する。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
朝のが、ゆらゆらとかいのあいだからしてくると、つよい気高けだか香気こうき水蒸気すいじょうきのようにのぼって、ソヨとでも風があれば、恍惚こうこつうばかりな芳香ほうこうはなをうつ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
靖国神社やすくにじんじゃ神殿しんでんまえへひざまずいて、清作せいさくさんは、ひくあたまをたれたときには、すでに討死うちじにして護国ごこく英霊えいれいとなった、戦友せんゆう気高けだか面影おもかげがありありと眼前がんぜんにうかんできて
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
寝て居ると思つて居た人が坐つて居る。白い切れを髪の上に掛けて、色の白いを抱いて居る気高けだかい美しい女である。マリヤがふとあらはれた様な思ひもしないではない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかし気高けだかいこの二人はそもそもどういう身分の者であろう? 男は草色の衣裳を着、細身の太刀たちいている。高朗としたその姿は若い公卿衆くげしゅうとでも云いたげである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時ちらちらと降りかかり、冬牡丹ふゆぼたん寒菊かんぎく白玉しらたま乙女椿おとめつばき咲満さきみてる上に、白雪しらゆきの橋、奥殿にかかりて玉虹ぎょっこうの如きを、はらはらと渡りづる、気高けだかく、世にも美しき媛神ひめがみの姿見ゆ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)