明晰めいせき)” の例文
ところが一方の意志が薄弱なるときは、頭脳が明晰めいせきなれば、先の先までも見えて心配の苦を増し、はなはだしく人を臆病ならしめる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
頭脳明晰めいせきにして、組織だった宇宙観、人生観を有せる人である。ゆえに彼の言う所は常に理性的にして、その論理は整然としておる。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかし司令は、がんらい頭の明晰めいせきな人であったので、山岸中尉の話の中におごそかな事実のあるのを見てとり、中尉の願いをききいれた。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
例の崋山の力のある筆致で箱の裏に字句は忘れたがたしか短く二行ほどに書いてあったかと記憶する。勿論、印顆も明晰めいせきしてあった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその男の話に充分の理解と最も明晰めいせき洞察どうさつをもって、今の社会の如何いかに改造すべきや、現内閣の政治上の事に至るまで
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
我々はここに、「いき」と「いき」に関係を有する他の諸意味との区別を考察して、外延的に「いき」の意味を明晰めいせきならしめねばならない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
A イヤ、あれは本統ほんとうだよきみ。ちやんと新聞しんぶんいてあつた。それを精密せいみつ記憶きおくしてるのがすなはおれ頭腦づなう明晰めいせきなる所以ゆゑんさ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
人々は「しッ!」と叫んだ。そして皆黙った。楽長はなおちょっと待った。それから口を開いた。——(明晰めいせきで冷やかでよく通る声だった。)
あとになって明晰めいせきな理性の保証するところによると、その無意識らしい状態にだけ関している記憶を、呼び起した短い、ごく短い時期があった。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
そこのところがちょっと明晰めいせきに区別が立たないものだから、相手はばかのような気がするにもかかわらず、あまり与次郎の感化をこうむらない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あなたはみごとに正確にいっさいのことを要約しましたね。あなたの考えかたはなんて驚くほど明晰めいせきなんでしょう!」
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
僕は論文を書く場合に、言語をできるだけ明晰めいせきにし、辞書が正解する通りの、最も普遍的な字義解によって使っている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
口の利き方もいつものような明晰めいせきを欠いていた。病勢のおそろしく増進して来た先生の内部には、生きようとする苦しい努力、はかないもだえがあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ところが男の明晰めいせき確乎かっこたる返答に出会って、その不思議な男はただ不思議なばかりで何らとらうべきところがないのを見た時、彼は自分の弱味を感じた。
頭脳の明晰めいせきと相まって、その心は広く厚く、老成した君子のおもかげがある。広太郎ほどの人間でも、舞二郎には一目置き、むしろ兄事けいじしているのである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
室内は寂然ひっそりした。彼の言は、明晰めいせきに、口きっしつつも流暢りゅうちょう沈着であった。この独白に対して、汽車のとどろきは、一種のオオケストラを聞くがごときものであった。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
結局十歳のかめさんや、試写会における児童の端的で明晰めいせきなリマークに及ばざることはなはだ遠いようである。
生ける人形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私はエレベーターの前まで戻って来た時、かれこれ五時に近く廊下の電灯がいたばかりの時間であった。にわかに頭脳が明晰めいせきになりからだが軽快になった。
そして、船長にしろチーフにしろ、頭脳が明晰めいせきなために、その地位を得たのではないことを知ったのだった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
明晰めいせきに書いてみようもないのではあったが、もしまだ出さなかった材料を出し、簡略に失した説明を少し詳しくしてみたら、あれほどにはあるまいというのが
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼の行文は明晰めいせきで平明だ。言語学者の眼から見ると、ほとんどスラヴ語のニュアンスを欠いているとさえ言われている。しかしその底にはおそるべき漠然さがある。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
立ち上がると、明晰めいせきな言葉で、自分で作った詩を、少しばかり皆に披露するのを許してくれと言いました。皆が呆れたように微笑しながら、その許しを与える。
一——自由な明晰めいせき真摯しんしな眼、ヴォルテールや百科全書派アンシクロペジストらが、当時の社会の滑稽こっけいと罪悪とを素朴そぼくな視力によって諷刺ふうしさせんがために、パリーにやって来さした
そうしてこの結論は、特に実業界などに志す一部の青年の間には、さらにいっそう明晰めいせきになっている。
食事をとると、子供は見る見る元気になって、こちらの問うことには、非常に明晰めいせきに何でも答えた。
夏の夜の冒険 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
この珍しい素直さを取戻してみると、それからのこの男の頭が驚くばかり明晰めいせきなものとなりました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが明晰めいせきに語られるならば、異端の烙印らくいんを蒙るおそれは決して存しないわけではなかった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
たゞ予習復習の奮励が教室でめき/\と眼に立つ成績を挙げるのを楽しみにした。よし頭脳が明晰めいせきでないため迂遠うゑんな答へ方であつても、答へそのものの心髄は必ず的中した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
砲術家の出だけに明晰めいせきな頭脳の持主でしたが、趣味があって、書道をたしなみ、俳句を作り、水彩画をかいたり、園芸を楽しんだり、色々に趣味をもって自ら慰めて居りました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
人間、九死一生の場合にはとても頭が明晰めいせきになるものだと聞いていたが、確かに然うだった。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
壁の一点を中心にしてそのまわりへ尺平方ほどの円を描きながら、彼女はいっそう明晰めいせきな口調で妙な繰り言をくどくどと並べ出した。聞いて行くうちに伝二郎は二度びっくりした。
疑いもなく何人の模倣をもまたは追随をも許さぬ自律の美である。ただ朝鮮の内なる心を経由してのみあり得る美である。私は朝鮮の名誉のためにもこれらの事を明晰めいせきにしたい。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
自分は偶然輪郭りんくわくの極めて明晰めいせきな古代の裸体像を思出した。クラシツク芸術の美麗を思出した。ベルサイユ庭苑ていゑんの一斉に刈込まれた樹木の列を思ひ出した。わが作品もかくごとくあれ。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
寅二郎が、日本字なりと答えると、ウィリアムスは笑って、それは唐土もろこしの字ではないかといった。ウィリアムスの明晰めいせきな日本語と日本についての知識とが、寅二郎たちをよろこばした。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
戦慄すべき、犯罪の天才、私は嫉妬に狂った、而かも肺結核という——れは寧ろ患者の頭脳を病的にまで明晰めいせきにするかたむきのある所の——不治のやまいかかった、一人の暗い女を想像した。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
永眠する数日前までも頭脳は明晰めいせきで、息の通う間は一行でも余計に書残したいというほど元気旺勃おうぼつとしていた精力家の易簀えきさくは希望に輝く青年の死をかなしむと同様な限りない恨事である。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それは一種不可思議な思いがけない平静の、最初の瞬間だった。彼の動作は正確明晰めいせきで、その中には固い意図がのぞいていた。『今日だ、いよいよ今日だ!……』と彼はつぶやいた。
彼が公文書の遒麗しゅうれい富贍ふうせんにして、しか指画しかく明晰めいせきなる、しこうしてその措置の尋常に非ざる、決してゆべからざるものありといえども、これを以て真個しんこの経世家カブールの手腕に比すれば
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この日、先生すこぶこころげに喜色きしょく眉宇びうあふれ、言語もいたっ明晰めいせきにして爽快そうかいなりき。
言語は非常に明晰めいせきでニュアンスに富み、頭脳のみだれも思考の障害も感じさせないが、最近二十年間ぐらいの日本の社会事情に触れると当惑の色をあらわしてしどろもどろになってしまう。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
頭脳の明晰めいせきなことは確かとしてもその頭脳に自信をもちすぎた、人づき合いの悪い男、議論においてけっして他人ひとに負けない男、たかだか強情我慢の偏窟人へんくつじんとしてしか知られていなかった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その時のわずかな明晰めいせきな言葉が、永久にわたしをこの世の人のかずから引き離してしまって、わたしは自分の手で自分の墓の石蓋いしぶたをとじ、自分の手で自分の牢獄の門をとじたのでありました。
明晰めいせきな頭脳、胆力、識見、そして堂々たる風貌、すべてが群を抜いていた(筆者の所有する資料に白描の肖像が載っているが、それは英国の前首相ウインストン・チャーチル氏に瓜二つである)
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一条忠衛氏が本年一月の『六合りくごう雑誌』で明晰めいせきに論断しておられます。
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
我々の自己自身を、デカルトの如き意味において一つの実体と考えるならば、それにおいての内的事実として、いわゆる明晰めいせき判明なる真理も、主観的たるを免れない。デカルトもあきらかにこれを意識した。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
美しい怜悧れいりらしい言語の明晰めいせきな女子である。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼らが凡人よりも早く事物の要点を見る明晰めいせきの頭脳を有することは疑いなきも、また凡人の窺知きちし得ざる苦労をるのである。光圀卿みつくにきょう
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
打てば響くがごとく、塔十郎の答えは明晰めいせきであった。だが、彼の言を信じれば、痴情でないと言った江漢老人の鑑定は根本からくつがえってくる。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
非常ひじやうなもんだよ。きみこといてくれた。おれ頭腦づなう明晰めいせきを一層確實そうかくじつ證據しようこだてる機會きくわいあたへてくれたこときみ感謝かんしやするね。ちたまへ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
彼はゲルマン的な夢想に富めば富むほど、ラテン的な秩序と精神の明晰めいせきとをますます要求した。それゆえフランスは彼にとって非常に貴重なものだった。