こす)” の例文
その時平岡は座敷の真中に引繰り返って寐ていた。昨夕ゆうべどこかの会へ出て、飲み過ごした結果だと云って、赤い眼をしきりにこすった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と言ふより早く、智恵子の手は突然いきなり男の肩に捉つた。強烈はげしい感動が、女の全身に溢れた。強く/\其顔を男の二の腕にこすり付けて
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
無闇と人の頬片ほッぺた髭面ひげつらこすり附けやアがって……おや笠を落してしまった、仕様が無いなア……おや笠は此処におッこちてる
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旦那様も笑ってりかえりました。やがて、めばたきをしたり、眼をこすって見たりして、眼鏡を借りようとはなさいません。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
目をこすつて見れば、夜は明け離れて、旭が麗かに照つて居ます。木の間には枝から枝に渡つて鳴く小鳥、清い山風にさからつて高く舞ふ青空の鷲ばかり。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
馬越氏は皺くちやなの甲で、その大事な眼をこすつてよろこんだ。そして骨董屋の店前みせさきを出ようとして思はずどまつた。
刃を上にして膝へ載せてから研石みがきいしを取って竜之助は、静かにその刃の上を斜めにこすりはじめました。竜之助は、いまこの刀の寝刃ねたばを合せはじめたものであります。
一本づつ引拔ひきぬき半分禿頭頂はげあたまにしてぢく/\と血の出る處へ太筆ふとふですみくろ/″\と含ませぐる/\と塗廻ぬりまはし夫より鹽水をそゝぎ懸て強くこすこみければ盜人はヒツ/\と聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
門長屋の兵六老爺ひょうろくおやじ、大手を開けに朝く起出でて、眼と鼻をこすりながら、御家の万代よろずよを表して、千歳ちとせみどりこまやかなる老松おいまつの下を通りかかれば、朝霜解けた枝より、ぽたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男は越中ふんどし一本、女は腰巻一枚、大の字なりになり、鼻から青提灯あおぢょうちんをぶら下げて、惰眠をむさぼっている醜体しゅうたいは見られたものではない。試みに寝惚ねぼけ眼をこすって起上った彼等のある者をつかま
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
貞之進は紙の吸口で火鉢の縁をこすって居たが、三度の食に望みはないことだから、宿を新しく取るよりも、ほんの二三日此家ここで済めば結句勝手じゃがと、そのまゝ父に泊込まれて気が気でなく
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
こん畜生! 武士さむらいばかさうなどゝはしからぬと、叔父も酒の勢ひ、腰なる刀をひらりと抜く。これを見て狐は逃げた。吉田は眼をこすりながら「あゝ、ねむかつた……。」それからのちは何事も無い。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
何か言い出しそうにしては口のあたりを手の甲でこするのでございます。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
よっちゃんが、くろ砂鉄さてつかみうえにのせて、両手りょうてっていると、たけちゃんが、磁石じしゃくで、かみうらこすっています。すると、砂鉄さてつがむくむくとむしのはうように、磁石じしゃくのいくほうについてうごくのでした。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
八五郎は畳の上にしゃがみ込んで、血の痕を指でこすっております。
其時平岡は座敷の真中まんなか引繰ひつくかへつててゐた。昨夕ゆふべどこかのくわいて、飲みごした結果けつくわだと云つて、赤いをしきりにこすつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
貴方あなたは——』と言ふより早く、智惠子の手は突然男の肩に捉まつた。烈しい感動が、女の全身に溢れた。強く強く其顏を男の二の腕にこすり附けて
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と七人力の力で庭の飛石へこすり付け、友之助がればこうであろうと、和田原安兵衞の差していた脇差を取って蟠作の顔を十文字に斬り、われは此の口で友之助をだましたか
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人のいない大きな浴槽よくそうのなかで、洗うともこするとも片のつかない手を動かして、彼はしきりに綺麗きれい温泉をざぶざぶ使った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
饂「待つのは長いもので、おまけに橋のたもとだからふるあがるようで、拳骨げんこつ水鼻みずッぱなこすって今まで待っていたが、雪催ゆきもよおしだから大方来なかろう、そうしたら明日あしたは君のうちく積りだった」
小野さんは右の手で洋服の膝をこすり始めた。しばらくは二人とも無言である。心なき灯火ともしびが双方を半分はんぶずつ照らす。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
海の底に足がついて、世にうときまで思い入るとき、何処いずくよりか、かすかなる糸を馬の尾でこする様な響が聞える。睡るウィリアムは眼を開いてあたりを見廻す。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでは流石さすがにゆつくりと膳につく気もなかつた。立ちながら紅茶を一杯すゝつて、タヱルで一寸ちよつと口髭くちひげこすつて、それを、其所そこへ放り出すと、すぐ客間へ
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこではさすがにゆっくりと膳につく気も出なかった。立ちながら紅茶を一杯すすって、タオルで一寸ちょっと口髭くちひげこすって、それを、其所へ放り出すと、すぐ客間へ出て
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)