よじ)” の例文
その片隅に、もう消えかかったガラ焼の焔と煙が、ヌラヌラメラメラと古綿のように、または腐った花びらのようによじれ合っているのであった。
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
腹をよじつたり、仰反のけぞつたりしてゐたが、笑ひ疲れて眼をショボショボと凋ませ乍ら、漸く笑ひを収めたら「メエンメエン」と言つて口を尖らせ
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
彼等二人は、上半身を斜によじって、ようやく通れるぐらいの路地をくぐり抜け、余り広くもないその裏の広場へ出た。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
ヒュウと悲しい音を立てて、空風からかぜが吹いて通る。跡からカラカラに乾いた往来の中央まんなかを、砂烟すなけぶりぼっと力のない渦を巻いて、よじれてひょろひょろと行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その職員室真中まんなか大卓子おおテエブル、向側の椅子いすかかった先生は、しま布子ぬのこ小倉こくらはかま、羽織はそでに白墨ずれのあるのを背後うしろの壁に遣放やりぱなしに更紗さらさの裏をよじってぶらり。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此の谷の内側は漏斗形になつてゐて、その底はどれ程の深さがあるか分らないよじれた管になつてゐる。
戞然かつぜんと火の匂いを発して五合六合——二つの木剣が縄によじれて見えるばかり激しく打ち合った間髪、エヤッと五体を絞った重蔵の気合い鋭く横薙よこなぎに捨てた真蔭の玄妙。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがに、それには極く軽いびが声によじれて消える。客はほのかな明るいものを自分の気持ちのなかに点じられて笑う。ともよは、その程度の福ずしの看板娘であった。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今までは処々によじれて垂れて居て、泥などで汚れて居た毛が綺麗になって、玻璃はりのように光って来た。この頃は別荘を離れて、街道へ出て見ても、誰も冷かすものはない。
両膝をもろに床の上にドサリとつくと、ブラリと下った二本の裸腕で支えようともせず、上体をクルリと右へよじると、そのままパッタリ、電車の床にうつせになって倒れた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
面倒くさくなって私は振り向き女のよじれた上半身を抱きあげ、脣を合わせる。女は鼻腔であらい呼吸になり、小さな竜巻のように舌をまるめ、せいいっぱい私の舌を吸おうとする。
愛のごとく (新字新仮名) / 山川方夫(著)
のの字を描き、しの字を描いて、風によじれ束になった焔が、おろちのように蜓って来る。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
風がんでいる間は母の袂をシッカリとよじれるようにとらえながら耳を澄ましてい、やがて遠くからごうと云う呻りが聞えて来ると、あわてて袂を放し、「恐いようッ」———と、非常に低い
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あまり腹の皮をよじったので、ヨットのことなど忘れてしまう。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
半纏はんてん股引ももひき腹掛はらがけどぶから引揚げたようなのを、ぐにゃぐにゃとよじッつ、巻いつ、洋燈ランプもやっと三分さんぶしん黒燻くろくすぶりの影に、よぼよぼしたばあさんが、頭からやがてひざの上まで
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、いった途端に、背後うしろへかくしていた大刀が、チカッと、やみの中に螢のような光をよじらせる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中継ぎに一つよじれて、あゝ揺れる。コリーンとコリーン・クリーム。揺れるなよ。中継ぎに捩れて海潮音に酔うて、うつゝなき形に、三稜の弁の形のビスケットが八枚と八枚を積み重ねる。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いずれも日蔭を便たよるので、よじれた洗濯もののように、その濡れるほどの汗に、すそふりもよれよれになりながら、妙に一列に列を造ったていは、率いるものがあって、一からげに
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのあかいのが映りそうなのに、藤色の緒の重い厚ぼったい駒下駄こまげた、泥まみれなのを、弱々と内輪に揃えて、またを一つよじった姿で、ふりしきる雨の待合所の片隅に、腰を掛けていたのである。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と見ると、蒼白くとおった、その背筋をよじって、貴婦人の膝へ伸しあがりざまに、半月形はんげつなりの乳房をなぞえに、脇腹を反らしながら、ぐいと上げた手を、貴婦人のうなじへ巻いて、その肩へ顔を附ける……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)