)” の例文
上気せる美くしき梅子のあどけなきかほを銀子は女ながらにれと眺め「私が悪るかつたの、梅子さん、何卒どうぞ聴かして下ださいな」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「いくらうろたえたって、暗殺者になるほど私は自分を軽蔑けいべつしやあしない、ことに貴方を斬るなんて、うぬれてはいけませんよ、原田さん」
三蔵は、ゾクとしてすぐ体じゅうが火照ほてってくるような経験のない昂奮につつまれて、これはものになる、とうぬれた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくぼくで名人けつせん觀戰記くわんせんきを書き力に相當加ふるものありとうぬれて、共にり切つてゐるのだからたまらない。
せいはスラリとして痩型やせぎすの色の白い、張りのいい細目の男らしい、鼻の高い、私の眼からもれとするような、ねたましいほどの美男子であった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
きっとれするようにうつくしくなるであろうと、お世辞せじにほめていただいた、あのゆめのようなのことが、いまだにはっきりのこって……きちちゃん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「イヤになるなア、金なんざ百も欲しくねえが、江戸の良い娘がベタれといふが出ませんかね。塵溜ごみだめをあさつてゐる雄鷄をんどりの生れ變りで結構だから」
「さあ、出来上った。——まあ貴方、よく似合うのネ。ほんとにれするようないい女になってよ、まあ——」
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勿論、お嬢さんの持って居る肉体の美は、れから二三十年も過ぎて、じょれて来ると同時に、何処いずこともなく消えうせてしまうには違いない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その彼らの社会に占め得た地位と、彼らとは背中合せに進んで行く僕の性格が、二重に実行の便宜を奪って、ただけかかったむなしい義理の抜殻ぬけがら
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はすの浮気は一寸ちょいとれ」という時は未だ「いき」の領域にいた。「野暮な事ぢやが比翼紋ひよくもん、離れぬなか」となった時には既に「いき」の境地を遠く去っている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
しかもそれを当事者自身は何か英雄的行為のようにうぬれ切ってするのですからね。けれどもわたしの恋愛小説には少しもそう云う悪影響を普及する傾向はありません。
或恋愛小説 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうしてれと嫁の顔をながめる仕末なので、ぶん殴るわけにもいかず、さりとて、肥桶をかついで遊びに出掛けるのも馬鹿々々しく思われ、腹いせに銭湯に出かけて
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
うぬれの強いかの女はまた、莫迦ばか莫迦しくひがみやすくもある。だが結局人夫にんぷは人夫の稼業かぎょうから預けられた土塊つちくれや石柱をかかえ、それが彼等かれらの眼の中にいっぱいつまっているのだ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けてるんかいな。お前んとこへ泊るんや。……かどに書いて貼つたるやないか。」
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
このように紅緑白の三色をカッキリと染めるのが実に美しいと、温泉宿の主人は、さもれとするように話をしてくれる、私は親友水彩画家、大下藤次郎氏が、ある年七月の初めに
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
チョットれでもいいから居ないかと聞いてみたが、愛子はただポカンとして頭を左右に振るばっかりだから、しまいにはこっちが負けてしまった。頭の悪い奴はコンナ場合全く苦手だよ。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女はこう云ってれする声を出して笑った。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つまり、これがひと目れという奴か。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
かされてしまいそうだ。11470
うぬるる友に
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
横に、笛を構えて、歌口うたくちしめしているお菊ちゃんの形が、優雅で、厳粛げんしゅくで、斧四郎も露八も芸妓たちも、れとひとみを彼女の顔にあつめていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おいらァとれてるんだ。かおといい、姿すがたといい、おまえほどのおんな江戸中えどじゅうさがしてもなかろうッて、師匠ししょうはいつも口癖くちぐせのようにいってなさるぜ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
乃公はそこでいつも勇ましい自分の顔をれと見つめるのだった。ヴィクトル・エマヌエル第一世はこんな顔をしていたように思うなどと、私は反身そりみになった。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを自分だけ特に好かれている、と思ったのは、うぬれだ、こう思って彼は唇をゆがめた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
石井依右衛門は一と目れしたのも無理はありませんや、場所は目黒の林の奥の尼寺、大夕立で薄暗くなって居るところへ、青々とった若い尼さんが、極り悪そうに、渋い茶を
友禅のそでかげから、お白粉を塗った手をつき出して見ると、強い頑丈がんじょうな線が闇の中に消えて、白くふっくらと柔かに浮き出ている。私は自分で自分の手の美しさにれとした。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
平家のでも源氏の代でも、同じようにいもを食うては、同じように子を生んでいる。天下の役人は役人がいぬと、天下も亡ぶように思っているが、それは役人のうぬれだけじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしまたれとするような因果応報いんがおうほうの世の中でもあると思った。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
恋敵こいがたきとするには余りに相手が不足すぎる。うぬれでなく、どう公平にくらべても、自分を見代えて、この猿殿と約束を交わす物好きな女性はよもあるまい。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日は二人とも久方ぶりで風呂ふろを浴び、加代は貧しいながら髪化粧をしている。乙女十九、幸い薄く育ったが備わった品位と美しさは、兄の眼にもれするくらいだった。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平家へいけ高平太たかへいだ以下皆悪人、こちらは大納言だいなごん以下皆善人、——康頼はこう思うている。そのうぬれがためにならぬ。またさっきも云うた通り、我々凡夫は誰も彼も、皆高平太と同様なのじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は、数百円もしそうな漆黒しっこくのサラブレッド種のくらにぎゅっと乗りこんでいた。その毛のつや、乗馬靴の艶、鞭の艶、トム公はれと見入ってしまった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金色にうろこの光るその獲物をさも惜しそうに、また自慢そうに、そして私の購買欲をそそるように、れと眺めながら云った、「こんなえっけえ金鮒はめったに捕れねえからな」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お前は風に吹かれてゐるあしだ。空模様はいつ何時変るかも知れない。唯しつかり踏んばつてゐろ。それはお前自身の為だ。同時に又お前の子供たちの為だ。うぬれるな。同時に卑屈にもなるな。
闇中問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
金色にうろこの光るその獲物をさも惜しそうに、また自慢そうに、そして私の購買欲をそそるように、れとながめながら云った、「こんなえっけえ金鮒はめったに捕れねえからな」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれのうぬれは、そんなことで、老いてはいない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)