おそ)” の例文
非常におそろしい物を見たように、信乃はそれを机の上へ投げだした。それからまたすぐにそれを机の向うへ、元のように落とした。
めおと蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは最初こそ、彼には楽しい想像の接穂つぎほとしても親まれたが間もなくするうちに、それはおそろしい恐怖の予言のように思われはじめた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
其後そのご幾年いくねんって再び之を越えんとした時にも矢張やッぱりおそろしかったが、其時は酒の力をりて、半狂気はんきちがいになって、漸く此おそろしい線を踏越した。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ロレ ロミオよ、てござれ、てござれよ、こりゃ人目ひとめおそはゞかをとこ。あゝ、そなた憂苦勞うきくらう見込みこまれて、不幸ふしあはせ縁組えんぐみをおやったのぢゃわ。
唐義浄訳『根本説一切有部毘奈耶破僧事こんぽんせついっさいうぶびなやはそうじ』巻十五に昔波羅痆斯はらなし城の貧人山林に樵して一大虫とらに逢い大樹に上ると樹上に熊がいたのでおそれて躊躇ためらう。
『医学のために教えた解剖学の類は、おそらく生物学には大して役にも立つまい。』と先生は、歎息しておっしゃった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
道が段々山里の方へ入つて行くと、四辺あたりが一層闃寂ひつそりして来て、石高いしだかな道をき悩んでゐる人間さへがんな心をもつてゐるか判らないやうにおそれられた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
やがあいちやんは其兩手そのりやうてきのこ缺片かけつてゐたのにがついて、おそる/\ふたゝびそれをはじめました、めは一ぱうを、それからほかはうかはる/″\めて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
背負せおひて立出是も西の方へ行しがやがて伊勢屋の家内かないさわぎ立しゆゑ私し此處こゝらば盜賊の連累まきぞへに成んと是をおそれて迯出せしをりかくとらはれて候なりと申せしかば大岡殿是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おもき物いみも既にてぬ。絶えて兄長このかみおもてを見ず。なつかしさに、かつ此の月頃のおそろしさを心のかぎりいひなぐさまん。ねぶりさまし給へ。我もの方に出でんといふ。
天下の美人、あに、一人に限りましょうや。それがしは、唯それがしの武名が、髪の毛ほどでも、天下に名分が立たないようなことがあってはならん——と、それのみをおそれとします。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あかけたすぎひかへてからりとしたにはは、赤土あかつち斷崖だんがいそこしづんだやうにえる。あをそらかぎつてつた喬木けうぼくこずゑさらたかかんぜられた。勘次かんじおそろしい異常いじやうかんじにあつせられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おそる日西山にせまって愁阻を生じ易きことを
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
敬二はおそふるえてばかりいなかった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今は我おそれず、逃ぐるすべなく恐ろしき
「あゝ、おそろしい夢を見た……」
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
われと悲しき歓楽くわんらくおそれてふるふ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おそるゝか死を。——のどふた
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
私は性慾に駆られて此線の手前迄来て、これさえ越えれば望む所の性慾の満足を得られると思いながら、此線がおそろしくて越えられなかったのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こっちも飽きが出て何しに躍り来たか見定めなんだが、上述の蝮を殺した実験もあり、また昔無人島などで鳥獣を殺すとそのともの鳥獣がおそかくれず
お銀は床のなかで、その女が亭主に虐待されていたという話をして、自分の身のうえのことのようにおそれた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、彼は誰へ言うともなく呟いてから、彼自身を顧みて、この言葉が自分の気持の上だけのものであることを恥ておそれながらも、優しく続けるのであった。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
證據しやうこやある』と王樣わうさままをされました、『おそれることはない、はやへ、さもなければ即座そくざ死刑しけいだ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
大きなる家のにぎははしげなるに立ちよりて一宿ひとよをもとめ給ふに、田畑たばたよりかへる男黄昏たそがれにこの僧の立てるを見て、大きにおそれたるさまして、山の鬼こそ来りたれ
いつぞや韓遂かんすいにいわれたことばを思い出して、馬超も、心におそれを生じたか
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我はおそれず、このよきときに
おそるゝか死を。——のどふた
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
茫然としていると、雨に打れて見る間に濡しょぼたれ、おそろしく寒くなる。身慄みぶるい一つして、クンクンと親を呼んで見るが、何処からも出て来ない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
邦、因って血をいて死に、同日富人も稗を夢み病死した(『還冤記』)。桃はもと鬼がいたおそるるところだが、この張稗の鬼は桃を怖れず、桃枝もて人を殺す。
来た当座、針を動かしている彼は時々巡査の影を見ておそれおののいていた。そしてどんな事があっても、一切おもてへ出ることなしに、家にばかり閉籠とじこもっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おそれはひと通りでなく、新たに計をたてて、まず残兵を集めて二手に分け、瓦口関の前に伏せ、本陣はなおも退却と見せかければ、張飛必ず追いくるに違いなし、そのとき一せいに打って出で
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は自分自身がおそろしいと思った。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
されば最初猴をおそるる余りこれに食を供してなるべく田畑を荒さぬよう祈ったのを、後には田畑を守り作物を豊穣にする神としたので、前に載せた越前の刀根てふ処で
別室に閉じめられた病人を看護している母親に、おどおどした低声こごえで時々話をするきりであった。兄をおそれたり、嫂に気をかねたりする様子が、ありありその動作に現われていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「孔明孔明というが、ほどの知れたものよ」とおそれるふうもなかった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)