御心みこころ)” の例文
神職 いや布気田ふげた、(禰宜の名)払い清むるより前に、第一は神の御罰ごばつ、神罰じゃ。御神おんかみ御心みこころは、仕え奉るかんぬしがよく存じておる。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これこそ限りもない光栄であるとお見えになるのであるが、みかど御心みこころにはなお一段六条院を尊んでお扱いになれないことを残念に思召おぼしめした。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
母君ふけるまでいさめたまふ事多し、不幸の子にならじとはつねの願ひながら、折ふし御心みこころにかなひ難きふしのあるこそかなし。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
神祇じんぎの歌といへば千代の八千代のと定文句きまりもんくを並ぶるが常なるにこの歌はすつぱりと言ひはなしたる、なかなかに神の御心みこころにかなふべく覚え候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
御心みこころと御心との、間にあるうえに、今度の皇位の廃立はいりゅうにあたっては、いよいよ、そのむずかしさを、当然に、加えていよう。
はたしてそれは神の御心みこころに通じたかどうか僕には分らないが、とにかくすばらしい機会がやって来た。予想だにしなかった絶好のチャンスがやって来た。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この事おもてより願はばいとやすからむとおもへど、それのかなはぬは父君の御心みこころうごかしがたきゆゑのみならず。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
神様の御心みこころを知るわけにゆきませんもの……どうしてあなたはそんなに、きいてはならないことをおききになるんですの? そんなつまらない質問をして
「いや、それは世間の人が勝手に云い触らしたことで、仏の御心みこころはわかりません。果たしてコロリ除けのお呪いになるかどうか、わたくし共にも判りません」
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私はもうその御言葉を承りました以上は明日あす死んでも少しも心残りは御座いませぬ。私の心がおわかり遊ばしますれば、何で私が王様の御心みこころそむき奉りましょう。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
この悪魔は体が大きいばかりでなく、魔術を一番沢山知つてゐて、元は神様の御使ひの一等よい一人でありましたから、よく神様の御心みこころを察することが出来ました。
悪魔の尾 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
盲目の乞食に御心みこころ引かれたが、彦四郎の様子がただならなかったので、宮家は黙々とおん足を返された。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御心みこころ安く思召おぼしめせ、と七国のいにしえを引きてこたうれば、太孫は子澄が答を、げに道理もっともなりと信じたまいぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
国民すべてとともに恩寵おんちょうを蒙り、菩提を致さしめんと、何よりもまず民草の上に御心みこころを垂れ給い
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「うん、みずうみすのは、神さまの御心みこころはんするのかもしれない。あした、このことをみんなに話してみよう。おそらく、湖はもとのままにしておくことになるだろうよ。」
神の摂理せつりを認め己を神の僕と信ずる上は、苦難災禍我を襲い来るとも「御心みこころをして成らしめ給え」といいて静に忍耐すべきである。これ僕たる者のるべき唯一の道である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
……おろそかなるべき事にはあらねど、かすかなる住居すまいはかり給え。……さてもこの三とせまで、いかに御心みこころ強く、ともとも承わらざるらん。……とくとく御上おんのぼり候え。恋しとも恋し。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また、さばかり他人に対して善く忍び給ひし父の、折にふれて、子等に向ひ激怒を発せられしは、我等の放逸なる性精を矯めんとの御心みこころしらひなりけんと思ふに、かへすがへすもかたじけなし。
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
神の御心みこころは彼にたくさんの貧しい縁者をめぐみたもうていたのである。
本日御父上陛下の御命日を迎えて、予は終日御心みこころを考えて、沈思した。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
あたたかき御心みこころこもるこのへやにあまたの猫も飼はれて遊ぶ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
⦅神様、聖なる御心みこころの、成就致されますやうに!⦆
「神よ、おんみの御心みこころにかなひますやうに——」
御心みこころならば、主よ、アグネスをも召し給え」
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼神の御心みこころかなへり。われ等の周囲めぐり
わが心にあらず、御心みこころのままに。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
にほはしき御心みこころの程は知りぬ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
御心みこころんで思召されたことなのであったから、特に構図なども公茂画伯きんもちがはくに詳しくお指図さしずをあそばして製作された非常にりっぱな絵もあった。
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
だからこそ、尊氏はひたすら機を待つにくなしとしていた。自然、御心みこころが、人心の望まぬ王政の非をさとられる日を、気長に待つの腹でおった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、分別も何もなし、たといいかなることありとも、母上の御心みこころに合わぬ事は誓ってせまじ。」
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これだけの星を知るも大なる夜の慰めとなるのみならず神の御心みこころを知るにおいても益せらるる処少なくない。実に天然は聖書以前の聖書である。その中に神の御心が籠っている。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そうではのうてあの狐めのたわむれ半分の悪戯からかいから、殿の心をたぶらかし、この山吹を賭物かけものにして、もしこの山吹をわが君が、心に従わすことが出来たなら、あの狐めも殿の御心みこころ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
感応かんのうありて、一念の誠御心みこころかない、珠運しゅうんおの帰依仏きえぶつ来迎らいごうかたじけなくもすくいとられて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と仰せになって、御心みこころは冷静でありえなくおなりになるのであろうが、じっと堪えて脇息きょうそくによりかかっておいでになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
一般の者が「……これやよも、ただ事の御祈願ではあるまいぞ、内々、南都なんと叡山えいざんへお手を廻して、お味方に馴付なづけんとする御心みこころでもあろうや?」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はて此の野は其のお宮のぬしの持物で、何をさつしやるも其の御心みこころぢや、聞かつしやれ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
帝、我を奈何いかんせんとするぞや、と問いたもう。震こたえて、君は御心みこころのまゝにおわせ、臣はみずから処する有らんともうす。人生の悲しきに堪えずや有りけん、その駅亭にみずからくびれて死しぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
竹原館へ入らせられてより、大塔宮は熊野、高野、吉野方面の衆徒の動静や、京都の動静へ御心みこころを配られ、村上彦四郎以下八人の家臣や、竹原入道の家来をして、その様子をさぐらせられた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御心みこころをして成らしめよ」との黙従に入り得るのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
みかど御心みこころの鬼に思召おぼしめし合わすことになってもよろしくないと源氏ははばかられて、ただ一人心で阿弥陀仏あみだぶつを念じ続けた。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
七たび生れてこの国を護らんと仰っしゃった大楠公の御心みこころは、名もない一兵にまでとおっていたものとみえまする。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神職 すなわち神の御心みこころじゃ——その御心を畏み、次第を以て、順に運ばねば相成らん。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御心みこころにかかり、宮家は萩と卯木とのくさむらを、向こうの方へ廻って行かれた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あのような御諚ごじょうではあっても、御心みこころのうちでは、其許そこの御真情を、おうれしくおぼしめされていたにちがいありませぬ
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏の御心みこころにもその祈願は取り上げずにいられまいと思われた風流男たちの恋には効験ききめがなくて、荒削りな大将に石山観音の霊験が現われた結果になった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「いやいや、岩の砕けないのがすなわち神の御心みこころなのじゃ!」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
弁財天の御心みこころが、おのずから土地にあらわれるのであろう。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
斎王の美に御心みこころを打たれながら、別れの御櫛みぐしを髪にしてお与えになる時、みかどは悲しみに堪えがたくおなりになったふうで悄然しょうぜんとしておしまいになった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかし、ぎょうは、行のための行ではない。出離生死しゅつりしょうじの妄迷を出て彼岸ひがんの光明にふれたい大願にほかならない。九十九夜の精進が果たして仏の御心みこころにかなったろうか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神職 退さがれ、棚村。さ、神の御心みこころじゃ、猶予ためらうなよ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)