夕餉ゆふげ)” の例文
二人は默々として、明神下へ、お靜がヤキモキしながら、夕餉ゆふげの膳の上の冷えるのを氣にして居る——平次の家へと急ぐのでした。
果して人の入来いりきて、夕餉ゆふげまうけすとて少時しばしまぎらされし後、二人はふべからざるわびしき無言の中に相対あひたいするのみなりしを、荒尾は始て高くしはぶきつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
年長としかさな小児らは勢ひ込んで其ならんだ火の上を跳ねてゆく。恰度夕餉ゆふげの済んだところ。赤い着物を着た女児共をんなのこどもは、打連れて太鼓の音をあてにさゞめいて行く。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
すると其処へ須世理姫が、夕餉ゆふげの仕度の出来たことを気がなささうに報じに来た。彼女は近親のを弔ふやうに、何時の間にかまつ白なを夕明りの中に引きずつてゐた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
座敷ざしき二階にかいで、だゞつぴろい、人氣にんきすくないさみしいいへで、夕餉ゆふげもさびしうございました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
家では権八の母親が夕餉ゆふげ仕度したくをして私達の帰りを待つてゐた。私がたゞならぬ様子をして走り込んだので彼女は怪訝けげんな目顔で迎へながら尋ねた。私のシャツはぼろ/\に裂けてゐたのだ。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
われは只管ひたすらに恍惚として夢の中なる夢の醒めたる心地となり、何事も手に附かず、夕餉ゆふげの支度するもものうく、方丈の中央まんなか仰向あふのきにね伸びて、眠るともなく醒むるとも無くて在りしが、さて
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
姫今は精進せじみの時なれば何もあらねど、夕餉ゆふげ參らすべければ來まさずやと案内したるに、おうな快手てばやくおのれが座の向ひなるこしかけに外套、肩掛などあるを片付け、こゝに場所あり、いざ乘り給へと
やがて何喰はぬとりすました顏をして夕餉ゆふげの食卓に向つた。彼は箸を執つたが、千登世はむつちりと默りこくつて凝乎じつ俯向うつむいて膝のあたりを見詰めてゐた。彼は險惡な沈默の壓迫に堪へきれなくて
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
田舍の屋根には草が生え、夕餉ゆふげの煙ほの白く空にただよふ。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
聲呼ばふ墓地のかかりの夕餉ゆふげどき遊びあかねば子らはかなしも
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
細々と夕餉ゆふげの煙がゆれもせず静に立昇るのを見ても……
秋雨あきさめ夕餉ゆふげはしの手くらがり
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
夕餉ゆふげに帰る時刻となれば
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
話が面白かつたので、銚子は一向にあきませんが、四邊あたりはすつかり暗くなつて、お靜は諦めたやうに、コトコトと夕餉ゆふげの支度をしてをります。
たちまちはたはたと跫音あしおと長く廊下にいて、先のにはあらぬ小婢こをんな夕餉ゆふげを運びきたれるに引添ひて、其処そこに出でたる宿のあるじ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いくら子供でも、男と女は矢張男と女、学校で一緒に遊ぶ事などは殆んど無かつたが、夕方になると、家々の軒や破風に夕餉ゆふげの煙のたなびく街道に出て、よく私共は宝奪ひや鬼ごツこをやつた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
積薪せきしん夕餉ゆふげ調とゝのをはりてりぬ。一間ひとまなるところさしめ、しうとよめは、二人ふたりぢてべつこもりてねぬ。れぬ山家やまがたび宿やどりに積薪せきしん夜更よふけてがたく、つてのきづ。ときあたか良夜りやうや
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
神を祈らば、あのマリウチアの腐女くさりをんなが、そちにも我にも難儀を掛けたるを訴へて、毒にあたり、惡瘡を發するやうに呪へかし。おとなしく寐よ。小窓をば開けておくべし。涼風すゞかぜ夕餉ゆふげの半といふ諺あり。
田舍の家根には草が生え、夕餉ゆふげの烟ほの白く空にただよふ。
蝶を夢む (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
声呼ばふ墓地のかかりの夕餉ゆふげどき遊びあかねば子らはかなしも
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今日の夕餉ゆふげに ひとり
鶴屋利右衞門は、雇婆さんに夕餉ゆふげの仕度をさせ、灘の生一本の鏡を拔いて、この花嫁を待つたのです。
またいつもかげかたちふやうな小笠原氏をがさはらしのゐなかつたのは、土地とち名物めいぶつとて、蕎麦切そばきり夕餉ゆふげ振舞ふるまひに、その用意ようい出向でむいたので、今頃いまごろは、して麺棒めんぼううでまくりをしてゐやうもれない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蝗麿網戸にとまり涼しさよあかりさしむけて我ら夕餉ゆふげ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
夕餉ゆふげの後の茶をすすり、煙草をのめば
呼子と口笛 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
遠山とほやまゆきかげすやうで、夕餉ゆふげけむり物寂ものさびしうたにおちる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蝗麿網戸にとまり涼しさよあかりさしむけて我ら夕餉ゆふげ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夕餉ゆふげの後の茶をすすり、煙草たばこをのめば
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
箸とりてらぐ赤ら夕餉ゆふげ主婦あるじ、家の子
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)