つか)” の例文
旧字:
「イヤ別に用事ではないが、お前は昼中働いて、つかれてもゐる事だから、せめて夜だけでも、おッ母さんに代はらせやうと思つてよ」
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
不潔な人間は一般に怠惰な人間であり、ストーヴのそばに坐りこみ、太陽がその寝姿を照らし、つかれもしないのに休息する者である。
その人のことを書いた本の中に、細君が酸乳すぢちというものをこしらえて、著作でつかれた夫に飲ませたというところが有った。それを言出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
興奮と煩悶はんもんとにつかれた勝平の頭も、四時を打つ時計の音を聴いた後は、何時いつしか朦朧もうろうとしてしまって、寝苦しい眠りに落ちていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今まで愉快であったカナリヤの声がにわかにうるさくなって、それがために朝々寐起きのつかれたる頭脳を攪乱せられるようになった。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
気をつかえば限りのない程、諸方面に万一の備えがる。それ程に、彼の期待の対象たいしょうはまだはっきりした意志を表示しないでいる。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しば浴後ゆあがりを涼みゐる貫一の側に、お静は習々そよそよ団扇うちはの風を送りゐたりしが、縁柱えんばしらもたれて、物をも言はずつかれたる彼の気色を左瞻右視とみかうみ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うとうとし、つかれきつて目を覚すと、やつぱりいくらも時間はすぎてゐないのです。ねむるためには、数を算えることがいいと言ひますね。
然し昨夜は可なりつかれてゐましたので 何にも書けませんでした。そして今朝御手紙を拝見して私は本当にどうしていゝか分らなくなりました。
二人は踏応えのない砂の上でみ合った、康子は微笑しながら見て立っていた、二人は勝負のつかぬ先につかれてしまった。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鶴が休もうとするとまた蝶が嘲弄しながら飛び出す、このように蝶は鶴の背に留まり通しで鶴は少しも休む事ならずついにつかれ死んでしもうた。
雪は深夜しんやにしたがひてます/\こほり、かれがちからには穴をやぶる事もならず、いでん/\としてつひにはせいつからす。
私は時にはその土手にのぼって、その松の根に腰をかけて足のつかれを休めながらあたりを眺めた。槇町で生れた私と同い年ぐらいである女はいった。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
つかれたふりをして修行者が寝て居ると、ある月夜の晩に彦五郎の手下が穴の側へ見張に出て見ると、修行者が居るから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
従って気に入ればいつまでも逗留とうりゅうするだろう。こっちはこれで四返目だたださえ大分だいぶつかれている。いわんや綱渡りにも劣らざる芸当兼運動をやるのだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その人がつかれてしまうとまた他の人を引っぱりだしてやらせる。皆が嫌がるとしまいには一人で、オフィリヤでもハムレットでも墓掘りでもやってしまう。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
が、富は界隈かいわいに並ぶ者なく、妻は若くして美くしく、財福艶福が一時に集まったが、半世の奮闘のつかれは功成り意満つると共に俄に健康の衰えを来した。
「よろしい、張君、君は残れ、それからラツール、君はつかれすぎている、君も残れ、それから玉太郎君、君もだ」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕はその夕がた、あたまのつかれをいやしに、井筒屋へ行った。それも、かどの立たないようにわざと裏から行った。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
その御様子が、いかにも物ごとにつかれ、物あんじにんで、そして御心配ごとで胸も心も一杯だという風に見えまする。……けれども……(と云いよどむ)
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
実に北海道の夏は、日中は最も炎熱甚しく、依て此厚着にて労働するが為めには実につかるる事多し。且つ畑のかたわらにて朽木くちきを集めて焼て小虫を散ずるとせり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
更にそこから湧き出した病毒、悪思想が、或は肉体から肉体へ、又は紙から紙へと伝わり拡がって、どれ位現在の英国を悩ましつかれさしていることであろう。
はら、やいの、おう、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。——(汗を流し、いたくつかれたる様に手を休めつつ)
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
さまさせまゐらせんといへるを、赤穴又かしらりてとどめつも、さらに物をもいはでぞある。左門云ふ。既に九〇夜をぎてし給ふに、心もみ足もつかれ給ふべし。
半死の人を乗せたボートの重みと、つかれ切った腕にとったオールは、とかく波にさらわれがちであった。
おさなき灯台守 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
かねちゃんは、泣きあぐんで、少し気がつかれて、火もない囲炉裏いろりの傍で、まりの温かいむくむくとした毛の中に可愛らしい頬を埋めて、居眠りをしたのであります。
嵐の夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
シルレル、若うして一友と共にひそかに郷関を脱走するや、途中一片の銅銭もなく一ヶのパンもなくうゑつかれに如何いかんともすることなく人里遠き林中に倒れむとしたり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は勉学につかれた頭を休めるため、桜の若葉を見ようとして、横浜公園の内部へと這入つて行つた。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
けれどもお母さんはつかれてはいるし、そんな危い物は見るのも嫌いだから、乃公をお父さんに預け、片時も目を離してくれるなと頼んで、御自分だけ宿屋に引取った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ねえさん、わしに少し菓子をくれないか」ボーイ長はつかれ切った声でささやくようにいった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
九月は田に立ちつかれて、やつれて帰って行くのを、何だそのぼろぼろしたなりはと笑い、春の三月はまた今頃出かけても、食うものなんかもう何も無いのにとひやかすが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
匪賊ひぞくが処在に蜂起してこれを征討する列強はために奔命につかるる。即ち沢山たくさんの金のみを要してなんらの得るところがない。いな、得る処なきのみならず、かえって益々ますます損をする。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
つく/″\静かに思惟しゆゐすれば、我憲清のりきよと呼ばれし頃は、力を文武の道につからし命を寵辱のちまたに懸け、ひそかに自ら我をばたのみ、老病死苦のゆるさぬ身をもて貪瞋痴毒とんじんちどくごふをつくり
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「フロラ、それは夢だつたのだよ、あの物語をあまり熱心に音読した前夜ゆうべつかれで——」
鸚鵡のゐる部屋 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
鱒魚はかように瀑布と悪戦苦闘を続けてつかれにつかれて、到底瀑布を登ることが出来ぬと断念して、他に上るべき水路を求めている、人間の猿智慧はこんな山間でも悪用されていて
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
と、堀は、さっきから張り詰めていた気のせいで、ぐったりと発熱のつかれを感じた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
九時、石造の堅き寝台に横たわった、が昼のつかれで、ついうとうとと夢路を辿る。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
先生はよほどつかれていらるる様子であるのに、こんな複雑な問題について長話をするのよくないことは知れきっているのであるから、予はここでこの問題についての話は止めてしまった
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
猩猩しやう/″\党は何処どこかで飲み倒れて仕舞しまつたのであらう。𤍠田丸の濡れた舷梯げんていのぼつて空虚な室に一人寝巻に着更へた時はぐつたりとつかれて居た。枕頭ちんとうに武田工学士からの招待せうだい状が届いて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
自分はいいところを見付けたと喜んで、松の根元の捨石すていしつかれた腰をおろした。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
父もいい加減読書にみ執筆につかれた頃とて、直ちに筆をき机を離れ、冬はストーブを囲み、夏はヴェランダに椅子を並べ、打ちくつろいで茶をすすり菓子をつまみながら、順序もなく連絡もなく
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
父もいい加減読書にみ執筆につかれた頃とて、直ちに筆をき机を離れ、冬はストーブを囲み、夏はヴェランダに椅子を並べ、打ちくつろいで茶をすすり菓子をつまみながら、順序もなく連絡もなく
法窓夜話:01 序 (新字新仮名) / 穂積重遠(著)
私達はその男をボートの中に引き上げてみると、それは、ハドソンと云う若い水夫であった。彼はひどく焼傷やけどをし、ひどくつかれていたので、翌朝まで何事が起きたのか彼から聞くことは出来なかった。
くわを振りあげて、自分の老齢ろうれいと非力を嘆じたわけだが、ともかく掘った。腕はしびれるようにつかれ、地にして休息した。隣家の庭のひのきに火がついて、マッチをすったあとの軸木じくぎのように燃え果てる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
「社会」につかれたファンはそこに一種の心安さを見出すのだ。
思想と風俗 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
これを捉えようとするものはつかれるだけです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
予がつかれをいたわりて馳走かぎりなし。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
ジヤニイノ 僕はもうすっかりつかれた。
かまどの灰や、歳月さいげつつかれ来て
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
左隊登場 最つかれたり。
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)