かむり)” の例文
美貌の源氏が紫を染め出したころの白菊をかむりして、今日は試楽の日にえて細かな手までもおろそかにしない舞振りを見せた。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ふとその飾った形も姿も、昔の故郷の雛によくた、と思うと、どの顔も、それよりは蒼白あおじろくて、きぬかむり古雛ふるびなの、たけが二倍ほど大きかった。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行手には唐人とうじんかむりを見る様に一寸青黒いあたまの上の頭をかぶった愛宕山あたごやまが、此辺一帯の帝王がおして見下ろして居る。御室おむろでしばらく車を下りる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「それほどまで、責任をとるなら告げます。おさしずのあり次第に、かむりの城へかかるべく待機しているところなので」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我の愛か、死をもておびやかすとも得て屈すべからず。宮が愛か、なにがしみかどかむりを飾れると聞く世界無双ぶそう大金剛石だいこんごうせきをもてあがなはんとすとも、いかでか動し得べき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
思へば/\はつかむりき候。太守樣にも至極御氣張り被遊候御樣子も被伺申候。又此上御わづらひおもり候ては、誠にやみの世の中に罷成儀と、只身の置處を不知候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
その地面には赤黒いいばらのような草が限りなく生えている。始めはたでの種類かと思って、橋本に聞いて見たら橋本はすぐかむりを横に振った。蓼じゃない海草かいそうだよと云う。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
師のねがふ事いとやすし。待たせ給へとて、はるかのそこくと見しに、しばしして、かむり装束さうぞくしたる人の、さき大魚まなまたがりて、許多あまた四四鼇魚うろくづひきゐて浮かび来たり、我にむかひていふ。
抑も辻行灯つじあんどうすたれて電気灯でんきとう光明くわうみやう赫灼かくしやくとして闇夜やみよなき明治めいぢ小説せうせつ社会しやくわいに於ける影響えいきやう如何いかん。『戯作げさく』と云へる襤褸ぼろぎ『文学ぶんがく』といふかむりけしだけにても其効果かうくわいちゞるしくだいなるはらる。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
せめてただ女神めがみかむりしろ百合の花のひとつとひかりそへむまで
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
かむり美麗のアルテミス答へて彼に陳じ曰ふ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
あふひかづらのかむりして、近衛使このゑづかひかみまつり
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かむり花葉はなばふりおとす栗の林の枝のうへ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
葡萄ぶどうのつゆと、美の神の花のかむり
貝のかむりと、つく杖と
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
至尊のかむりいたゞきし
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
花のかむりの鳥の子と
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
無紋のほうに灰色の下襲したがさねで、かむりは喪中の人の用いる巻纓けんえいであった。こうした姿は美しい人に落ち着きを加えるものでえんな趣が見えた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「高松の右翼、宮路とかむりの二城。左翼の加茂、日幡ひはたの二城。こう両翼を取り除くを先とする。たれか宮路の城を一気に攻め落す自信のあるものはないか」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
トトと大鼓おおかわの拍子を添え、川浪近くタタと鳴って、太鼓のひびきみぎわを打てば、多度山たどさんの霜の頂、月の御在所ヶたけの影、鎌ヶ嶽、かむりヶ嶽も冠着て、客座に並ぶ気勢けはいあり。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かむり花葉はなばふりおとす栗の林の枝の上に
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
かむりにかけしもろかづら
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
その身なりも名和一族のきらびやかにひきかえて、彼は島以来の荒海藻あらめにひとしい囚衣のままだし、もとよりかむりはいただかず、蓬頭垢面ほうとうくめんそのものだった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弁天島に尾をいて、二里三里に余る大竜が一条ひとすじ、白浪のうろこ、青いいわはだよこたえたように見える、鷲頭山をかむりにして、多比の、就中なかんずく入窪いりくぼんだあたりは、腕を張って竜が
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かむりをゆがめたまま逃げる後ろ姿を思ってみると、恥な気がしてそのまま落ち着きを作ろうとした。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
内裏雛のかむりして、官女たちと、五人囃子して遊ぶさまを、後に看護婦までも、幻に見たと聞く。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その五ツの星が個々にばらばらと炸裂さくれつすると、あざやかな光傘をサッと重ねて、かむり鏡台きょうだい姥捨うばすての山々を真っ青に浮かせて見せたかと思うと、その一つの星の色が、臙脂えんじから出た人魂のように
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上包うわづつみして一束、色紙、短冊。……俳句、歌よりも、一体、何と言いますか、かむりづけ、くつづけ、狂歌のようなのが多い、そのなかに——(能登路の記)——があったのです。大分古びがついていた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると将門は歓びの余り、結びかけていた髪のむすびも結びあえず、かむりをつけて客座に出て来た。その様子の軽率なのに、秀郷は、愛想をつかして戻って来たということが云い伝えられている。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、かむりをつらねて、帝の闕下けっかに迫ったというべきであろう。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのかむりの花は、元宵節げんしょうせつの何かですか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
着つけぬかむり、上のきぬ
山はかむりたけとよぶ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)