傘屋かさや)” の例文
はなさないでもおまへ大抵たいていつてるだらうけれどいま傘屋かさや奉公ほうこうするまへ矢張やつぱりれは角兵衞かくべゑ獅子しゝかぶつてあるいたのだからとうちしをれて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ひとりはそこを盗っ猫のように出て、塀のみねから外の大溝おおどぶへ飛び込み、往来の筋向いにあたる傘屋かさや三右衛門の裏へかくれた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白縮緬しろちりめんえりのかかった襦袢じゅばんの上へ薩摩絣さつまがすりを着て、茶の千筋せんすじはかま透綾すきやの羽織をはおったそのこしらえは、まるで傘屋かさや主人あるじが町内の葬式の供に立った帰りがけで
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
柘榴口ざくろぐちからながしへ春重はるしげ様子ようすには、いつもとおりの、みょうねばりッからみついていて、傘屋かさや金蔵きんぞう心持こころもちを、ぞッとするほどくらくさせずにはおかなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
学校の門前もんぜんを車は通り抜けた。そこに傘屋かさやがあった。家中うちじゅうを油紙やしぶ皿や糸や道具などで散らかして、そのまんなかに五十ぐらいの中爺ちゅうおやじがせっせと傘を張っていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
傍らにまばらに置かれてある絵具皿やすずりや筆を思えば、それが糊口ここうをしのぐ貧しい業であったことが分る。丁度私たちの町々に、今も傘屋かさや提灯屋ちょうちんやが店先で売りつつ仕事を急いでいるのと同じである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
仕事屋しごとやのおきやう今年ことしはるより此裏このうらへとしてものなれど物事ものごと氣才きさいきて長屋中ながやぢゆうへの交際つきあひもよく、大屋おほやなれば傘屋かさやものへは殊更ことさら愛想あいさう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かべみみありよ。さっき、とおりがかりにんだ神田かんだ湯屋ゆやで、傘屋かさや金蔵きんぞうとかいうやつが、てめえのことのように、自慢じまんらしく、みんなにはなしてかせてたんだ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
忽ちあかい郵便筒がいた。すると其赤い色が忽ち代助のあたまなかに飛び込んで、くる/\と回転し始めた。傘屋かさやの看板に、赤い蝙蝠傘かうもりがさを四つかさねてたかるしてあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
傘屋かさやきちだよ、れだよとすこたかへば、いやなだね此樣こんおそくになにひにたか、またかちんのおねだりか、とわらつて、いまあけるよ少時しばらく辛防しんばうおしとひながら
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ことことと羽目をたたく音のするに、誰れだえ、もうてしまつたから明日あした来ておくれとうそを言へば、寐たつていやね、起きて明けておくんなさい、傘屋かさやきちだよ、れだよと少し高く言へば
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)