停車場ステーション)” の例文
二十年前大学の招聘しょうへいに応じてドイツを立つ時にも、先生の気性を知っている友人は一人ひとり停車場ステーションへ送りに来なかったという話である。
ケーベル先生の告別 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は昨夜自動車に出会った場所は、停車場ステーションから海浜旅館ホテルへ出る道路みちとは違っている。しかも汽車が到着ついた時から一時間も経過っていた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
翌日あすは茫漠たる那須野なすのはらを横断して西那須野停車場ステーション。ここで吾輩は水戸からの三人武者と共に、横断隊に別れて帰京の途に着いた。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
停車場ステーション前へ出た。往来の両側には名物うんどん、牛肉、馬肉の旗、それから善光寺もうでの講中のビラなどが若葉の頃の風になぶられていた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
停車場ステーションもいつの間にか改築される、山の手線の複線工事も大略あらまし出来上って、一月の十五日から客車の運転は従来これまでの三倍数になった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
品川の停車場ステーションでお若が怪しい様子に付けこんで目を放さない気味のわるい男は、下谷坂本あたりを彷徨うろついております勘太かんたという奴。
停車場ステーションで車をやとってうちへ急ぐ途中も、何だか気がいらって、何事も落着いて考えられなかったが、片々きれぎれの思想が頭の中で狂いまわる中でも
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
上野の停車場ステーションで汽車へ乗って、ピューッと汽笛が鳴って汽車が動きだすと僕は窓から頭を出して東京の方へ向いてつばきを吐きかけたもんだ。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
王子の停車場ステーションへついたのは、もう晩方であったが、お島は引摺ひきずられて行くような暗い心持で、やっぱり父親のあとへついて行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大阪梅田停車場ステーションに着きけるに、出迎えの人々実に狂するばかり、我々同志の無事出獄を祝して万歳の声天地もふるうばかりなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
玄関にづれば、うばのいくはくつを直し、ぼく茂平もへい停車場ステーションまで送るとて手かばんを左手ゆんでに、月はあれど提燈ちょうちんともして待ちたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
暇乞いとまごいして帰ろうとすると、停車場ステーションまで送ろうといって、たった二、三丁であるがくまなくれた月の晩をブラブラ同行した。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ずっとのちになって、これは母が、父の故郷に尋ねて行ったものに違いないと気が付きましたから「あの時汽車に乗った停車場ステーションはどこだったの」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それがたちまち大穴様となって、京浜の人士を無数にひきよせ、それがために臨時停車場ステーションが出来たことを思えば、お穴様よりはいっそう由緒ゆいしょがあり
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「六郎さんが丈夫ですと、今年は一緒に大学へ来るんでした。一昨日の晩停車場ステーションでお母様がう云つて泣かれました。」と、坐ると行也いきなり、その事を云出す。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
停車場ステーションからダンリーという山駕籠やまかごに乗って直にサラット師の別荘〔ラハサ・ビラ〕に参りましたが、大変立派な別荘で私はそこへ泊り込むことになりました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
蝸牛かたつむりの旅のよう全財産を携えながら、わずかとはいえそれでもトランクやスーツ・ケースに相応の荷物を納め、なにがしの停車場ステーションより汽車に乗り込んだものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
「此処が停車場ステーションだね。ナカ/\立派だ。昨夜はどしゃ降りで碌すっぽ見なかったが……」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ひじと肘と触れ、背と背と合された人々が、駅ごとに二、三人ずつ減る、はてはバラバラになって、最後の停車場ステーションから、大きな、粗いを地平線に描いて散った、そうして思い思いの方向へとった。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
このランプはかつて新橋の停車場ステーションで使っていたと思う。
ランプのいろいろ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分は岡田夫婦といっしょに停車場ステーションに行った。三人で汽車を待ち合わしている間に岡田は、「どうです。二郎さん喫驚びっくりしたでしょう」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おいに留守を頼んで置いて、一寸三吉は新宿の停車場ステーションまで妻子を送りに行った。帰って見ると、正太は用事ありげに叔父を待受けていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
肌寒い春の夕がた私は停車場ステーションの柱によって千代子の悲愁を想いやった。思いなしかこのごろそのひとの顔がどうやらやつれたようにも見える。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
男は少しばかりの小遣こづかいをくれて、停車場ステーションまで送ってくれた女に、冬にはまた出て来る機会のあることを約束して、立っていった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
道々も故意わざと平気な顔をして、往来を眺めながら、つとめて心を紛らしているうちに、馴染の町を幾つも過ぎてくるま停車場ステーションへ着いた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
右手の道は、工事中の活動写真館があったり、空地があったりするが、その先は人家が櫛比しっぴして省線の停車場ステーションになっている。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
そう火事が矢鱈やたら無性むしょうにあって堪るもんでございますか。さて品川停車場ステーションより新橋へ帰るつもりで参って見ると、パッタリ逢ったはお若さんでげす。
その内に汽車は水戸に到着、停車場ステーション前の太平旅館に荷物を投込み、直ちに水戸公園を見物する。芝原しばはら広く、梅樹ばいじゅ雅趣を帯びて、春はさこそと思われる。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
汽車の時間を計って出たにかかわらず、月に浮かれて余りブラブラしていたので、停車場ステーションでベルが鳴った。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
重井おもい葉石はいし古井ふるいらの諸氏が名古屋より到着のはずなりければ、さきに着阪ちゃくはんせる同志と共に停車場ステーションまで出迎えしに、間もなく到着して妾らより贈れる花束を受け
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
やがて鬱金木綿うこんもめんに包みし長刀と革嚢かばんを載せて停車場ステーションの方より来る者、おもて黒々と日にやけてまだ夏服の破れたるまま宇品うじなより今上陸して来つと覚しき者と行き違い
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ロンドンの停車場ステーションですでに汽車に預けてしまった荷物も、乗り換えの時には旅客が各自に自分の荷物は自分で注意して、乗り換うべき列車の方へ持ち運ばなければならんという事であった。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
岸本はあの片田舎の家の方から品川の停車場ステーションまで帰って来て、そこで迎えの嫂と一緒に成ったという時の彼女を想いやることも出来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その日は眠い所を無理に早く起されて、足らない頭を風に吹かした所為せいか、停車場ステーションに着く頃、髪の毛の中に風邪を引いた様な気がした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大槻というのはこの停車場ステーションから毎朝、新宿まで定期券を利用してどこやらの美術学校に通うている二十歳はたちばかりの青年である。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
お島は浜屋で父親に昼飯の給仕をすると、碌々ろくろく男と口を利くひまもなく、じき停車場ステーションの方へ向ったが、主人も裏通りの方から見送りに来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
浅田は悠々と隣家の前を通って、停車場ステーションへ向った。彼は四谷で電車を下りると、例によって待っている自家用の自動車で、青山墓地へいった。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
火事よ/\という声がいたす、停車場ステーション待合まちあわすものは上を下へと混雑して、まるで芋の子を洗うような大騒ぎでげす。
さしも気遣きづかいたりし身体にはさわりもなくて、神戸直行と聞きたる汽車の、俄に静岡に停車する事となりしかば、その夜は片岡氏の家族と共に、停車場ステーション近き旅宿に投じぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ダンチェンコ氏が日本のさる田舎ゐなか停車場ステーションで、何心なく汽車の窓から首を出すと、そこの柵外に遊んで居た洟垂はなつたらしの頑童共わんぱくどもが、思ひがけず異人馬鹿と手をつてはやしたので
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
さっそく朝飯を掻込かっこみ、雨を冒して停車場ステーションへ駆け着けてみると、一行いっこう連中まだ誰も見えず、読売新聞の小泉君、雄弁会の大沢君など、肝腎の出発隊より先に見送りに来ている。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「武男、武男」と耳近にたれやら呼びし心地ここちして、がくと目を開きし千々岩、窓よりのぞけば、列車はまさに上尾あげお停車場ステーションにあり。駅夫が、「上尾上尾」と呼びて過ぎたるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
停車場ステーションへ送りに行ったら、多勢貴方がたの御友達も来ていて……後からやって来て、窓のところで泣いた人なぞも有りましたろう……」
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれども、こう云う安心がないとすれば、いくら馬鹿だって、十九だって、停車場ステーションへ来て汽車賃の汽の字も考えずにいられるもんじゃない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
A嬢はギルに向って手短かに昨夜来の出来事を語った。それによると彼女は昨夜、義理の母に当るA夫人から電報を受取って停車場ステーションまで出迎えにいった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
停車場ステーションでは蒼白あおじろ瓦斯燈ガスとうの下に、夏帽やネルを着た人の姿がちらほら見受けられた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
じやの道はへびだ。弁護士は直に其を言つた。丑松は豊野の停車場ステーションで落合つたことから、今この同じ列車に乗込んで居るといふことを話した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もし駆落かけおちが自滅の第一着なら、この境界きょうがいは自滅の——第何着か知らないが、とにかく終局地を去る事遠からざる停車場ステーションである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとA老人が逝去なくなった前夜、A夫人から電報が来て、九時に停車場ステーションに着くから迎えに来てくれとしるしてあった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
お節は妹と連立つて上野の停車場ステーションへ迎へに出掛けた。心待ちにした日よりは一週間ほど早く、遠い旅から帰つて来た人に逢ふことが出来た。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)