一昨年をととし)” の例文
(涙をぬぐふ。)おまへは一昨年をととしから三年越し、よくもよくもわたしをだましてゐた。恨みは屹と……。覺えてゐるがいゝ。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
最初お京とねんごろになつたが、一昨年をととし頃までは子供だと思つて居たお萩が近頃滅法綺麗になつたので、それに乘換へて三芳屋を乘取らうと考へたのだ。
貴君あなたお聞遊しましたかと良人をつとに向ひていまはし気にいひける、娘は俄にしほれかへりしおもてに生々とせし色を見せて、あのそれ一昨年をととしのお花見の時ねと言ひいだ
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
七十を越した祖母一人に小供二人、おのが手一つの仕立物では細い煙も立て難くて、一昨年をととしから女教師を泊めた。去年代つた智恵子にも居て貰ふことにした。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今の家に綾子が育てられる事となつたのは、一昨年をととしの春だつた。それから——はや二年ふたとせは過ぎた。
秋雨の絶間 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
一昨年をととしのこと、例のフォマ・グリゴーリエヸッチがディカーニカからやつて来て、たうとう新らしい馬車と鹿毛かげの牝馬もろとも、崩穴がけへ落つこちてしまつたといふ始末でな
一昨年をととしは、君には言はないで居たが、十幾年の間と云ふもの、全く忘れて居たいろいろの物を突然見せられたのだからして、すつかり少年時の情調の中へ移されてしまつて
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
彼方あなたも在るにあられぬ三年みとせの月日を、きは死ななんと味気あぢきなく過せしに、一昨年をととしの秋物思ふ積りやありけん、心自から弱りて、ながらへかねし身の苦悩くるしみを、御神みかみめぐみに助けられて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「坊んち嫌ひ。……お時さんは一昨年をととしからもうお母アさんやおまへんか。お父つあんと金毘羅まゐりしやはつた時から。……」と、兩の眼を繍眼兒めじろみたいにして、自分を見詰めた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その前の晩、田住生たずみせいが訪ねて来た。一昨年をととしの暮になくなつた湯村ゆのむらの弟、六郎の親友である。今度福岡大学へ行く途中とあつて立寄つた。此間こなひだの洪水で鉄道が不通ゆゑ神戸までは汽船にすると云ふ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
僕が一昨年をととしの今時分、地震後に此處へ遊びに來た時には、それはひどかつたんだよ。自動車が谷へ轉び落ちたまゝになつてゐたり、レールが弓のやうになつて谷へぶらさがつてゐたりしてゐて。
新婚旅行 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
しな卯平うへいをもいた落膽らくたんせしめた。卯平うへいは七十一の老爺おやぢであつた。一昨年をととしあきから卯平うへい野田のだ醤油藏しやうゆぐらばんやとはれた。卯平うへいはおしなが三つのときに、んだおふくろところ入夫にふふになつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『これはおしなさいよ、変ですから。一昨年をととしの冬からです。』
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一昨年をととしだつたね、芝居であつたのは。」
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
一昨年をととし
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
『今日の新入生は合計みんなで四十八名でございます。その内、七名は去年の学齢で、一昨年をととしンのが三名ございますから、今年の学齢で来たのは三十八名しかありません。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あのそれ一昨年をととしのお花見はなみときねとす、なにえとけてけば學校がくかうには奇麗きれいでしたねえとて面白おもしろさうにわらふ、あのとき貴君あなたくださつたはなをね、わたしいまほんあひだれてありまする
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どちらもやくで、『死』へのひたむきな道行を選んだのは、三芳屋の主人彦兵衞が、一人娘お萩の聟に、甥の音次郎を選んだために、音次郎と一昨年をととしの秋ごろから戀仲になつて居たお京が
彼は一昨年をととしの冬英吉利イギリスより帰朝するや否や、八方に手分てわけして嫁を求めけれども、器量のぞみ太甚はなはだしければ、二十余件の縁談皆意にかなはで、今日が日までもなほその事に齷齪あくさくしてまざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お縫 大菱屋おほびしや綾衣あやぎぬとかいふ女子をなご……。一昨年をととしからの深い馴染なじみとやら。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
一昨年をととしの秋、ゆくりなくも梅田のステーシヨンの薄暗い待合室で、鞄の荷札から手がゝりが付いて、幾年振りかに小池の姿を見出し、夢のやうにフラ/\と、二人で用もない河内の國を彷徨さまよつて
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
もと他村よそむらの者であるが、この村に医者が一人も無いのを見込んで一昨年をととしの秋、この古家を買つて移つて来た、生村うまれむらでは左程の信用もないさうだが、根が人好のする男で
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
では、今はその禿顱はげ中風ちゆうふうたきりなのだね、一昨年をととしから? それでは何か虫があるだらう。有る、有る、それくらゐの女で神妙にしてゐるものか、無いと見せて有るところがクレオパトラよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
主に初めて逢うたのも、一昨年をととしの草市の晩でござんした。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
『一度出した。アレは美術学校を卒業した年よ。然うだ、一昨年をととしの秋の展覧会——ソーラ、お前も行つて見たぢやないか? 三尺許りの幅の、「嵐の前」といふ画があつたらう?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それ、あのお芳茶屋の娘の何とかいふ子な、去年か一昨年をととしまで此方こちらの生徒だつた。——あれが貴方、むつちりした手つ手で、「はい、先生様。」と言つて渡して呉れたのを、俺はちやんと知つてる。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)