一夕いっせき)” の例文
近頃はお角の弟子達を全部断って、肌寒くなりまさる晩秋の一夕いっせきを、長火鉢を挟んで口説くぜつの糸をたぐるのに余念もなかったのです。
「で、今夜は、それがしが一夕いっせきこいを遂げた訳。ご迷惑でも、どうか一こんお過ごしあって、存分、わがままをいってもらいたいのじゃ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マイル長線道ランゲリイネを自由港まで散歩。片側は城砦。いっぽうは海峡の水。コペンハアゲン訪問者の忘れてならない一夕いっせきのアドヴェンチュアだ。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
かの女達は、むす子を頼んで置くその青年医を一夕いっせき、レストランへ招待した。かの女達は、魚料理で有名なレストランへ先に行っていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は正金しょうきん銀行支店長の松倉吉士まつくらきちじという方の宅へ招かれて、在留日本人の紳士紳商の方々のために一夕いっせきチベット談を致し
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
紐育ニューヨークにては稀に夕立ふることあり。盛夏の一夕いっせきわれハドソン河上の緑蔭を歩みし時驟雨を渡頭ととうの船に避けしことあり。
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そこまで至ると貴殿もなかなか話せる、ぜひ一夕いっせき、芝浦あたりへ舟を同じうして、おともを致したいものでござる」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この黒壁には、夏候かこうぴきの蚊もなしと誇るまでに、蝦蟇がまの多き処なるが、乞食僧はたくみにこれをあさりて引裂きくらうに、おおむ一夕いっせき十数疋を以て足れりとせり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅費の多き旅行なれば、千里の路も即日の支度にて出立すれども、子を育するに不便利なりとて、一夕いっせきの思案を費やして進退を考えたる者あるを聞かず。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
五十に近い身で、少年少女一夕いっせきの癡談を真面目に回顧している今の境遇で、これをどう考えたらば、ここに幸福の光を発見することができるであろうか。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その友人たちのうちにはまれには極端な節約家の彼に散財させて、一夕いっせきの歓を尽くすようなこともあった。
しからばすなわち、いかにして可ならん。曰く、この病根すでに深く骨髄に透入とうにゅうし、これを除かんと欲するも、もとより一朝一夕いっせきのよく及ぶところにあらざるは論なし。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
その翌日、チチコフは裁判所長のところで一夕いっせきを過ごしたが、この人はお客に接するのに少し垢じみた寛衣へやぎていた。しかもそのお客の中には何でも婦人が二人もまじっていたのだ。
それはルー・ド・グレネルの古い別荘で、親しい人たちが一夕いっせきを語り明かした末のことで、来客は交るがわるにいろいろの話をして聞かせた。どの人の話もみな実録だというのである。
元すててこもへらへらも郭巨かっきょ釜掘かまほりも大方が即興舞踊に端を発したるものとはいえ、それらのなんせんす舞踊には立派に曲もあり、振りもあり、よく一夕いっせきの観賞に値するのであるが
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
これほどまでに自分を引き留めたいのは、ただ当年の可懐味なつかしみや、一夕いっせき無聊ぶりょうではない。よくよく行く先が案じられて、亡き後の安心を片時へんじも早く、脈の打つ手に握りたいからであろう。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
就きましては一夕いっせき怪談会を催しまして、皆さまの御高話を是非拝聴いたしたいと存じておりましたところ、あたかもきょうは春の雪、怪談には雨の夜の方がふさわしいかとも存じましたが
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その年の正月に巴里パリにある心易こころやすい連中だけが集まって、葡萄酒ぶどうしゅを置き、モデルに歌わせ、皆子供のように楽しい一夕いっせきを送った時の名残なごりは、天井の下の壁から壁へ渡した色紙も古びたままで
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
相愛あいあいしていなければ、文三に親しんでから、お勢が言葉遣いを改め起居動作たちいふるまいを変え、蓮葉はすはめて優にやさしく女性にょしょうらしく成るはずもなし、又今年の夏一夕いっせきの情話に、我からへだての関を取除とりの
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こうして絶対に盗難の憂をなくするため、ほとんど要塞のように厳重な設備が出来上がったので、大佐はいよいよ邸宅改築の披露を兼ね、自慢のつづれの錦を展観させるべく一夕いっせき知己ちきを招いた。
その応戦の跡は『漢蘭酒話』、『一夕いっせき医話』等の如き書に徴して知ることが出来る。抽斎はあえげんをその間にさしはさまなかったが、心中これがために憂えもだえたことは、想像するに難からぬのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大臣の邸とは比べものにならない手狭てぜまな館ではあるけれども、一夕いっせき我が方へ臨席を仰いで饗宴きょうえんを催し、心の限りもてなしをして、感謝の念の萬分の一でも酌み取って貰えないであろうかと云うことも
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
試みに馬から落ちて落馬したの口調にならわば二つ寝て二ツ起きた二日の後俊雄は割前の金届けんと同伴つれかたへ出向きたるにこれは頂かぬそれでは困ると世間のミエがっつやっつのあげくしからば今一夕いっせきむが願いの同伴の男は七つのものを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
入道が、入道としての、面目を発すれば、彼等の伽藍がらん堂塔どうとう一夕いっせきに焼きつくして、一物の金泥や金襴きんらんも残さない焼け跡の灰の中に
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ムッソリニと握手する。一夕いっせき独逸ドイツ廃帝と快諾して思い出ばなしを聞く。ナポレオンの死の床も見たいし、ツタカメン王の使用した安全剃刀かみそりもぜひ拝観しよう。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
一夕いっせき、道庵の声名を聞いて、京から名酒を取寄せて贈り越したものがあって
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一夕いっせき、彼等のために夜会を催す必要があるとか言い出した時には、アカーキイ・アカーキエウィッチはすっかりまごついてしまって、いったいどうしたらいいのやら、何と返答したものやら
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
私は今でもこの古レコードに一夕いっせきの興をやることを楽しみにしている。
一夕いっせきの歓をつくすのは、それ自身において愉快な事であるが、この懇親が単に社交上の意味ばかりでなく、それ以外に一種重要な影響を生じうると偶然ながら気がついたら自分は立ちたくなった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一夕いっせきお通は例の如く野田山に墓参して、家に帰れば日は暮れつ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これやあ一つ、無沙汰ぶさたの親類どもや、同僚どもを、一夕いっせきんで、祝いをせにゃなるまいとわしは思う。なあ、半蔵殿」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長州藩では、藩の世子せいし長門守ながとのかみが、迎えに出た。また、五卿慰労の春帆楼の一夕いっせきには、藩士の桂小五郎かつらこごろうと、伊藤俊輔いとうしゅんすけが、あいさつを述べに、伺候した。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他人ひとの物に、惜し気もなく、悪友どもは、一夕いっせきつかいちらしてしまったが、あの金は、まさしく自分の借金だ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先ごろ、友人の服部之総はっとりしそう氏のきもいりで、東大、京大などの若い史学家ばかり十余名の人と一しょになった。「新・平家」を中心に、一夕いっせき大いに語ろうといってくれたのである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間、誰しもこういう一夕いっせきの悪かろう筈はない。平六はすっかりいい気もちになった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春日山かすがやま太守たいしゅ景勝様には、当城に御在陣ときき、主人羽柴筑前守様にも、千載せんざいの好機なれ、ぜひとも、一夕いっせきお会い申したいと、陣旅じんりょ寸暇すんかをさいて、富山よりこれへ参ってござる。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「けれど、世間では、こんどのご普請で、初めて老先生のお覚悟をはっきりと知ったのですから、古いお馴染なじみがいに、一夕いっせきぐらい、ゆるゆると、お膝を合わせて語りたいと熱望しております」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この一夕いっせきのことを、後の史家は「越水おちみず会盟かいめい」といって、以後、関ヶ原戦後にまでつづいた豊臣家と上杉家との金石きんせき盟約ちかいは、実に、この時、両者のあいだに結ばれたものだといわれている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内に叛臣あらわれ、外に魏呉の兵を迎え、どうして亡びずにいられるものではない。前途も多難、うしろも多事。征旅の夜にも、孔明の夢は、一夕いっせきたりとも、安らかではあり得なかったのである。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、小丸山の庵室は、一夕いっせきの法話でもあると、真冬の大雪をおかしても、聴聞に寄ってくる人々が、目立って数を増してきた。——万丈の白雪の下から、ふきのように、念仏の声はえていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師直は一夕いっせき佐女牛さめうしの佐々木道誉の招きでその邸へおもむいた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くめ。ここは百姓家じゃ。わしもいまは少将の領土の民、おぬしたちも少将の家来、ひとつものじゃ。——それにまた、こよいは遊ぼうという一夕いっせき、わしも遊ぶ、みなも肚のそこから遊べ。さあ、くつろげ
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくて、この日の会盟かいめいは、一夕いっせきのまに、果された。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一夕いっせきともさえ、あったりなかったりで
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一夕いっせきこい
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)