首肯うな)” の例文
十分ばかりすると、千代子は百代の耳に口を付けて、「百代さんあなた宵子さんの死顔を見て」と聞いた。百代は「ええ」と首肯うなずいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そう言うと「ええ。」と首肯うなずいて、目をとじた。二階へあがりかけると、この古い家の梯子段が暗くて、へんな闇のにおいのような湿けたくさみがした。
音楽時計 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私の土佐の友人吉永虎馬氏は植物に明るい人であるが、先年ソバノキの花はその観ソバの花の様だから、そういうだろうと私に話したことがあって当時私は成る程と首肯うなずいた。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
彼はお延の置いて行った書物のうちから、その一冊をいた。岡本の所蔵にかかるだけあるなと首肯うなずかせるようなおもむきがそこここに見えた。不幸にして彼は諧謔ヒューモアを解する事を知らなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
会心の微笑をらしながら首肯うなずいて、それを鷹揚おうように枕元へほうり出すか、でなければ、ごく簡単な、しかし細君に対して最も満足したらしい礼をただ一口述べて、再びそれをお延の手に戻すか
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)