“顫音（トレモロ）” の例文
なんらかの音楽の上になんらかの語られる声を張りつけて、顫音（トレモロ）を伴わせながら無理やりに、粗野な公衆へ粗野な効果を与えるのが、主眼ではない。
ジャン・クリストフ：10 第八巻　女友達 (新字新仮名) ／ ロマン・ロラン(著)
種々なサンドウィッチ、菓子、果物サラドの全行程をリプトン紅茶とともに流し込んで、丈夫な群集にピエロが描いた細い眉をあげながら顫音（トレモロ）でロマンスを唄っている。
ロンドン一九二九年 (新字新仮名) ／ 宮本百合子(著)
されば其（その）光の顫音（トレモロ）は悲しく
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) ／ 木下杢太郎(著)
銀色の靄（もや）が、地面に低く、また鏡のような水の上に、漂っていた。蛙（かえる）が語り合っていた。牧場の中には、蟇（がま）の鳴く笛の音の旋律（メロディ）が聞こえていた。蟋蟀（こおろぎ）の鋭い顫音（トレモロ）は、星の閃（ひらめ）きに答えてるかと思われた。
ジャン・クリストフ：03 第一巻　曙 (新字新仮名) ／ ロマン・ロラン(著)
ダヴィデの歌手の方は、背の高い太った格好のよい美人であったが、その声は感傷的で下品であって、插楽劇（メロドラマ）的な顫音（トレモロ）と奏楽珈琲店的な風情（ふぜい）とで重々しく広がっていった。クリストフは顔をしかめた。
ジャン・クリストフ：07 第五巻　広場の市 (新字新仮名) ／ ロマン・ロラン(著)