さまよ)” の例文
小屋には寝具、燃料、食糧等備っているので、ここを根拠地として立山へ登ったり、附近の高原をスキーでさまよい歩くのは実に楽しくよいところである。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
ときおりその一家の人達がその庭園の中にさまよったり、その花の世話をしたりしているのを見かけると、私の胸には何とも云いようのない寂しい気もちと
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
痩せ衰へた皮と骨とのからだをささへて、依然、古い家のまはりをうろついてゐた、それは死を賭してもなほ猫は猫の性格と伝説のなかをさまよはねばならないものを持つてゐるらしかつた。
鉄の死 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
読書と冥想のひまにはわが穴を嗅ぎまわる獣のように島のうちをさまよいあるく。その芙蓉の花の花びらに虻のとまったほどのこの島にも雨につけ風につけなにかの新しいことがないでもない。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
個人銘々の意識があてどもなくさまよい歩くということも、又は行きづまって動けなくなったということも、もう動かないことに決めて了ったということも、どれも不安にぞくするものではあろう。
世界の一環としての日本 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
いつも地平をさまよふ獣の群よ
深夜 (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)