“蹶飛(けと)” の例文
私が帰るといえばすぐにでも蹶飛(けと)ばしそうな剣幕ですから私も仕方なしにそこに坐って黙っていますと、娘は泣いておるのです。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
人生のことは叮嚀懇切(ていねいこんせつ)にやるだけやって見て、それでもだめだったら一挙に蹶飛(けと)ばして去るという私の生き方は、ここに来てもなお私にからみ附いていた。
雨戸を蹶飛(けと)ばして老師の前に躍(おど)りだしてやるか——がその勇気は私にはなかった。
父の出郷 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
身中(みうち)にかなりの痛みを覚えて幾つも拳骨を食(く)い、幾つも蹶飛(けと)ばされたようであった。彼はぼんやりしながら歩き出して土穀祠(おいなりさま)に入った。気がついてみると、あれほどあった彼のお金は一枚も無かった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
蹶飛(けと)ばしてやりたいような気になって見ていたがね、それがさ、七十になってみると人間のみずみずしさに至っては、まるで驚いて自分を見直すくらいになっているんだ。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)