蝋塗ろぬり)” の例文
匕首あひくちさやが一本、蝋塗ろぬりのありふれた品で、あんなのは何處にでもありますが、——それが六七間離れた橋板の上に棄ててありました」
彼のふところを出でたるは蝋塗ろぬりきらめ一口いつこうの短刀なり。貫一はその殺気にうたれて一指をも得動かさず、むなしまなこかがやかして満枝のおもてにらみたり。宮ははや気死せるか、推伏おしふせられたるままに声も無し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
默つて母家おもやの方を伏し拜むと、心靜かに取上げたのは言ふ迄もなく短刀。蝋塗ろぬりさやを拂つて、懷紙をキリキリと卷くと、紋服の肌をくつろげて、左脇腹へ——。
曲者の遺留品といふのは、蝋塗ろぬりの脇差のさやが一本だけ。