蒸気ゆげ)” の例文
旧字:蒸氣
みなわ、と云ったことばに、山西はびっくりして蒸気ゆげ濛濛もうもうと立っている鍋越しに小女こむすめの方を見た。小女こむすめって棚の方へ往こうとして、ちらりと客の方を見て笑った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ただ己の眼がだんだんあつい血の蒸気ゆげにかすんで来て、しまいには苔の上から落ちていた血の滴も聞えずに、じかに打ち合う石の音ばかりするようになったのだから
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
かう言ひながら、蒸溜人こしては感慨ぶかげに卓子の上へ眼を落して、そのうへに載せた自分の両手を眺めた。「いつたい、蒸気ゆげをどうするのか——いや、さつぱりせないこつて!」
「ははははは。どうだい、僕の薬鑵やかんから蒸気ゆげッてやアしないか」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)