苦味にが)” の例文
私は、もう苦味にがい葡萄酒でも呑むより仕方がない。岩のやうになつたパンと、林檎を持つて行かせて怒つた顔をしてみせました。
シベリヤの三等列車 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
多年の食道楽くいどうらくのために病的過敏となった舌の先で、苦味にがいともからいともすっぱいとも、到底一言ひとことではいい現し方のないこの奇妙な食物のあじわいを吟味して楽しむにつけ
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
陳亢はほっとしたが、胸の底には、ある苦味にがいものがこびりついて、容易に消えなかった。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
まづ、葡萄酒を一本買ひましたが、ハルピン出来を買つたので、苦味にがくてとても飲めたものではありません。
シベリヤの三等列車 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
把捉はそくしがたい様々の世を渡つて、こゝに行きついた人間の、卑しさが、富岡には苦味にがいものでもあつたのだ。人間は、単純なものであつた。些細ささいなことで、現実はすぐ変化する。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
じゅっと苦味にがいやにが舌に来る。田部はハンカチを出して、べっとやにを吐いた。「掃除しないからつまってるのよ」きんは笑いながら、煙管を取りあげて、散り紙の上に小刻みに強く振った。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それも、自ら踊りを踊る仕事で、苦味にがいことだらけだ。
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)