艪臍ろべそ)” の例文
弟がかいを握っていた。兄と彼女とが並んで彼の方を向いて掛けていた。艪臍ろべその鳴る音と胴が波を噛む音とにさえぎられて、彼らの会話は弟の耳へは達しなかった。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
なにってやんでえ、こっちがよっぽどお慰みだと、もやいを解いて、さおを使って舟を川へ出した。もうよかろうと、艪臍ろべそをしめそうとしたが、そこが取れて無くなっているので唸った。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
浜に上げられた漁舟の艪臍ろべその上に飛び乗り、がたがた歩いて、舟板をめくった。中は小さな舟底になっている。そこに体をすべり込ませ、舟板を元に戻した。そして体を胎児のように縮める。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
客は昨日からの事を思って、この竿を指を折って取ったから「指折ゆびお」と名づけようかなどと考えていました。吉はぐいぐい漕いで来ましたが、せっせと漕いだので、艪臍ろべそが乾いて来ました。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二人は、ちらっと、眼で、語り合うと、すぐ、をとって、艪臍ろべそへ落した。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)