さと)” の例文
それは伊澤蘭軒らんけんの嗣子榛軒しんけんむすめで、棠軒の妻であつた曾能子刀自そのことじである。刀自は天保六年に生れて大正五年に八十二歳の高齡を保つてゐて、耳もなほさとく、言舌も猶さわやかである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
聴くことはさとくありたいと思い、顔色は温和でありたいと思い、態度は恭しくありたいと思い、言語は誠実でありたいと思い、仕事は慎重でありたいと思い、疑いは問いただしたいと思い
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
主人の七郎兵衞といふのは、町人には相違ありませんが、四十五六のあまり丈夫さうではない男で、色の青黒い、毛の多い、高い鼻と細い眼が特色で、何んとなく利にはさとい人柄に見えます。
今にして思へば自分ながらしかねる心地がするのだが、貧しい苦學生で、そのやうなことについては人一倍さとく心が働く筈でありながら、時々歸つて來ればいやでも眼につかずにはゐない筈の
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
さとき子らかなやあはれ夜に聽きてかはづ啼くころろと啼くよと聽きをる
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)