汽鑵きかん)” の例文
その日、私達は定刻にリオン停車場をて、約三時間はしりました。馬鹿に熱くるしい日で、速力のはやいにも拘らず、汽鑵きかん台へ来る風が息づまるようでした。
片帆の力を借りながら、テンポの正規的な汽鑵きかんの音を響かせて、木下の乗る三千トンの船はこの何とも知れない広大な一鉢の水の上を、無窮に浮き進んで行く。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
不幸なる彼は胸に納めた音楽で沸騰していた。数週間以来音楽を聞くことも演奏することもできなかったので、高圧を加えられた汽鑵きかんのように爆発しかけていた。
犬吠埼いぬぼうさきから金華山きんかざん沖の燈台を離れると、北海名物の霧がグングン深くなって行く。汽笛を矢鱈やたらに吹くので汽鑵きかん圧力計ゲージがナカナカ上らない。速力も半減で、能率の不経済な事おびただしい。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
軸や輪や汽鑵きかんがある。凡人の腕で、猛獣を馴らすように、馴らされた秘密の力がある。扣鈕を掛けたジャケツの下で、男等の筋肉が、見る見る為事の恋しさに張って来る、顫えて来る。
(新字新仮名) / ウィルヘルム・シュミットボン(著)