死物しぶつ)” の例文
空虚にしてしまふものだから、死物しぶつになるも同樣、さ。死物の膽力とか、不動心とか云ふのは、ただ物に感じない無神經の虚飾に過ぎない。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
そうした凄愴せいそうな空気の中で、法水は凝然とまなこを見据え、眼前の妖しい人型ひとがたみつめはじめた——ああ、この死物しぶつの人形が森閑とした夜半の廊下を。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「あの頃は、わしもまだ血気の美青年よかにせで、村の娘ん子たちに騒がれたもんじゃったが……。この頃のように欲念が薄うなっては人間も早や死物しぶつ同然じゃ」
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
口をつぐんだまま、腹中で発音して死物しぶつに物を云わせる、あの八人芸という不思議な術を。それを、あの怪物が習い覚えていなかったと、どうして断定出来るであろう。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そんなうわさ話が生れる程あって、この人形共は何だか死物しぶつとは思えないのだった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)