正月はる)” の例文
そのころ柳沢はどっか神楽坂かぐらざかあたりにも好いのが見つかったと思われて、正月はる以来好いあんばいにお宮のことは口にしなくなっていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
門松はサラサラ、追羽根はカッチンカッチン、いかにも正月はるらしい長閑な夕暮。粋な座敷着もちらほら通る。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
押しつけるような閑静のどかのなかを、直ぐ前の御成おなり街道をゆく鳥追いの唄三味線が、この、まさに降らんとする血の雨も知らず、正月はる得顔えがおに、呑気のんきに聞えて来ていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
頼まれた正月はる着の仕立に追われて、夜を徹する日が続いたが、ある夜更け、豹一がふと眼をさますと、スウスウと水洟をすする音がきこえ、お君は赤い手で火鉢の炭火を掘りおこしていた。
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)