止絶とぎ)” の例文
晩春の宵で、静かな波の響きが、一寸話が止絶とぎれると微かに聞えた。——父の妾の家の二階だつた。
父を売る子 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
妻は、一言でも言葉を止絶とぎらせたならば彼が再び眠つてしまふことを怖れて、彼が返事をせずには居られない問ひを考へて、矢継ぎ早やに放たなければならなかつた。
F村での春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
それでも、ふつと言葉が止絶とぎれて川向ひの歓声だけが手にとるやうに響いて来るのを聴き入るやうな沈黙しゞまが来ると、滝の眼にはNの青い瞳が、はてしもなく遥かに、物哀しく沾んで映ります。
舞踏会余話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)