槿むくげ)” の例文
広い庭を囲っている槿むくげ生垣いけがきを越して、向うには畑を隔てた小家が二、三軒つづいている筈であるが、その灯も今夜は見えなかった。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それもなまじ西洋文学なぞうかがひて新しきを売物にせしものこそ哀れは露のひぬの朝顔、路ばたの槿むくげの花にもまさりたれ。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
重い疲労を引きりながら、夕方の道を帰って来た。その日町へ出るとき赤いものを吐いた、それが路ばたの槿むくげの根方にまだひっかかっていた。堯にはかすかな身ぶるいが感じられた。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
仙台市の町はずれには、到るところに杉の木立と槿むくげまがきとが見られる。寺も人家も村落もすべて杉と槿とを背景にしていると云ってもいい。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
槿むくげの花の咲いている竹籬たけまがきに沿うて左に曲ると、正面に釈迦堂がある。頼家の仏果円満を願うがために母政子の尼が建立したものであるという。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
槿むくげの花の咲いている竹籬たけがきに沿うて左に曲がると、正面に釈迦堂がある。頼家の仏果ぶっか円満を願うがために、母政子まさこの尼が建立こんりゅうしたものであると云う。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
林子平の墓は仙台市の西北、伊達堂山の下にある、槿むくげの花の多い田舎道をたどってゆくと、路の角に「伊達堂下、此奥に林子平の墓あり」という木札を掛けている。寺は龍雲院というのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)