曙町あけぼのちょう)” の例文
私は氏が曙町あけぼのちょうに始めて新らしい生活を始めやうとされる迄の氏の母上に対する苦しい心持に幾度も泣かされた事を覚えてゐる。
平塚明子論 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
帰朝後いよいよ東京へ落ち着かれたころは、西片町にしかたまちへんにしばらくおられて、それから曙町あけぼのちょう生涯しょうがいの住居を定められた。
田丸先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
阿部様、土井様、酒井様、亀井様、近くの華族の邸は皆出入です。私どもが曙町あけぼのちょうへ移って間もない頃、そこらに火事があって、私の家は高台ですからよく見えます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
考えるには、青春の血が、あまりに暖かすぎる。目の前にはまゆを焦がすほどな大きな火が燃えている。その感じが、真の自分である。三四郎はこれから曙町あけぼのちょうの原口の所へ行く。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
氏は御宿を立つとき私の手紙を見なかつてこちらへ帰つて来ると同時に廻送されて曙町あけぼのちょうのお宅で見たと仰云ひました。
昭和六年からは「曙町あけぼのちょうより」という見出しで、豊隆の「仙台より」と、やはりだいたいひと月代わりに書いて来た。それがだんだんに蓄積してかなりの分量になった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
通りへ出ると、表門の前には車が並んで、巡査が交通整理をしているようです。通りを横切って曙町あけぼのちょうに這入ります。会葬者らしいのがまだ続いて、寺の門へ向って行きます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
曙町あけぼのちょうの、とある横町をはいると、やはり道ばたに荷馬車が一台とまっていた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)