揚羽蝶あげはちょう)” の例文
私は一匹の揚羽蝶あげはちょうをつかまえただけで、昆虫の素ばしこさには手を焼いているから、彼の活躍の後姿を眺めながら煙草たばこをふかしているのであった。
流浪の追憶 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
六月中旬頃になると松本平の北端明科あかしなあたりから眺めて、長い頂上の左の肩のすぐ下の所に雪が大きな揚羽蝶あげはちょうの形をして残る、つまり白い揚羽蝶である。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
帰るとたらいを出して水をあびる。どぶに糸みみずのウヨウヨ動いているのを見つけて、家の金魚のおみやげだと掻廻かきまわす。邸町やしきまちの昼は静かで、座敷を大きな揚羽蝶あげはちょうが舞いぬけてゆく。
腹には揚羽蝶あげはちょうと木の葉がひつかゝり、片足の股の付根にカマキリが羽をひつかけて斧をふりあげて苦闘し、片股に油蝉がかゝつてゐる。中心の局所に蜘蛛が構へて目玉を光らしてゐるのである。
金銭無情 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)