悽愴ものすご)” の例文
自然の生まれ付きか、あるいは多年もてあそんでいる蛇の感化か、いずれにしてもお絹が蛇のような悽愴ものすごい眼をもっていることは争われなかった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
被衣を洩れた女の顔は譬えようもないほどに悽愴ものすごいものであった。彼女の眼は怪しくさか吊って火のように燃えていた。彼女の口はけもののように尖っていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いくら飲んだっていいよ。あたしが飲むんじゃないから」と、眼付きのいよいよ悽愴ものすごくなって来たお絹は、左の手には杯を持ちながら、右の手で袂をいじっていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きのうの稲妻に照らされた悽愴ものすごい顔とは違って、今夜の月を浴びた彼女の清らかな神々こうごうしいおもてには、月の精が宿っているかとも思われた。千枝太郎に師匠を疑う心がまた起こった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わらわの申すことを用いねば命はないぞ、そのに及んで後悔おしやるなと、言うかと思うと、その檜扇の蔭から怖ろしい……人か幽霊か鬼かけものか判らぬような、世に悽愴ものすご変化へんげのおもてが……。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)